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東芝不適切会計事件の教訓

2016年4月13日 弁護士 中島 成


中島が、平成28年4月13日、上場企業の管理職に「コーポレートガバナンスの今」について講演し、その中で「東芝不適切会計事件の教訓」について論じました。そのレジメを公開します。このレジメの全部又は一部を、セミナー、勉強会、講演、講義等で使用される場合、その他の目的で頒布・転載される場合は、あらかじめ当事務所の承諾を得るようお願いします。

【時系列】

証券等監視委員会に対する内部者からの公益通報が発端
※ 東芝は内部通報制度を整備していた。しかし、そのルートは使われず、証券等監視委員会に対する内部者からの行政機関(証券等監視委員会)に対する公益通報が使われた。経営トップが関与する不祥事(不適切会計)であったことが影響した可能性がある。

2015年
2月
公益通報を受けた証券等監視委員会が東芝に報告命令
7月
第三者委員会による報告:過去7年間で1500億円の利益過大計上
12月
証券等監視委員会が東芝に73億7350万円の課徴金命令
(代表訴訟関係)

株主から東芝に対し経営陣に対する代表訴訟の提起請求があり、それを受けて2015年11月に東芝自身が提起した。請求総額は32億円。2016年1月、同訴訟に株主が訴訟参加した。株主は、会社が被告としなかった経営陣に対し代表訴訟を起こす旨報道されている(日経新聞)。

(株価下落等による損害賠償訴訟)

米国カリフォルニアで東芝と経営陣を相手に損害賠償訴訟が提起された。
日本では、大阪で45人の株主が約1億7300万円の損害賠償を(日経新聞)。東京、福岡でも56名の株主が3億3500万円の損害賠償(毎日新聞)を求める訴えが提起された。高松でも同様の訴訟が(毎日新聞)提起される旨報道されている。

(監査法人関係)

平成27年12月、金融庁は、新日本監査法人に対し、新規契約の業務停止3ヶ月(平成28年1月1日〜3月31日)の処分を行い、業務改善命令を出した。
平成27年12月、金融庁は、公認会計士7名に対し、1ヶ月から6ヶ月の業務停止の懲戒処分とした。
平成28年1月、金融庁は、新日本監査法人に対し、課徴金21億1100万円を課した。

【不適切会計処理(利益水増し)の具体的な内容】(第三者委員会の報告)

(1)インフラ事業の工事進行基準 479億円

工事進行基準=受注から完成・引き渡しに数年かかる場合は、工事による収益、原価、決算日の工事進捗度に応じて収益、原価を計上する方法。
受注時点で赤字が確定しているのに損失計上しなかった

(2)映像事業の経費計上 61億円

引当金の計上時期、費用計上の先送り、在庫評価などの操作
利益目標を達成するため、「キャリーオーバー」と称する調整が行われた。

(3)パソコン事業の部品取引 578億円

委託者ブランドで販売される製品製造を委託する台湾企業に部品を有償支給し、その価格を価格漏洩を防ぐためにマスキング価格にしていたところ、そのマスキング価格を調達価格の5倍近い金額にして調達価格との差額を製造原価のマイナスという方法で利益としていた。その結果、営業利益が売上高を上回る異常値を示す場合もあった。

(4)半導体価格の在庫評価 371億円

在庫の評価損計上の先送り

2008年度からの過去7年間で、これら利益操作の合計額は約1500億円

【東芝のガバナンス体制】

  • 2000年に内部通報制度を導入
    通報先は、社内窓口、外部法律事務所で通報者の匿名性を守る制度だった。
  • 2001年に社外取締役3名を導入
  • 2003年に委員会等設置会社に移行
  • 監査委員会5名中3名が社外取締役だった。委員長は、歴代の財務担当執行役だった。
  • 社内取締役である監査委員が不適切会計を認識し委員長に報告していたのに監査委員会においてそれに対応する行動は取られなかった。
  • 第三者委員会によれば、経営トップの関与を含む組織的な関与が行われたとされ、その原因として、
    • 当期利益至上主義
    • 目標達成のプレッシャー
    • 上司の意向に逆らえない企業風土
    • 適切な会計処理遵守への意識の低さ
    • 内部通報制度の有名無実化
    などがあげられている。

    しかし、これらはどの会社にも多かれ少なかれ存在する一般的なことがらにすぎないから、今回の不適切会計が発生してしまった本当の原因まで深掘りできていない可能性がある。

【教訓】

経営トップの意識が最も重要
  • コンプライアンス、あるべきコーポレート・ガバナンスのためには、経営トップの意識が最も大切。
    社外取締役を複数置いたり、委員会設置会社となるなどの形式をいくら整えても、経営トップが関与する不適切を防止することは困難。
  • 2001年に破綻した米国のエンロンの取締役会は14名中12名が社外取締役だった。
  • 内部通報制度の形式がいくら整えられていても、経営トップが関与する可能性のある不祥事については全く役に立たなかった。

    他方、会社が用意した内部通報窓口ではなく、証券等監視委員会に内部者による公益通報はなされ、それが端緒となった。その意味で、内部通報制度が役に立たない場合も、公益通報者保護法で守られて行政機関に通報するというルートは機能し得ることを示した。
  • 監査法人、公認会計士(会計監査人)と監査役等の連携強化
    法令違反などが重要で必要があれば、監査法人等が内閣総理大臣への申し出ることが法律で強制されている(金融商品取引法193条の3)。

    これを背景に、監査役と監査法人が緊密に連携すれば、経営トップに対応を迫ることは可能。
  • 違法な経営がなされていると企業自体の存続が危うくなることの認識を、経営トップ・役員を含めた従業員が強く認識することが重要。
経営トップが不祥事に関与していなかった場合にコンプライアンスのために最も重要なポイント

「経営トップを裸の王様にしない」

そのため、実質的に有効な内部通報制度を含む内部統制システムを整える。
内部通報制度を実効的なものにするためには、経営トップが内部通報者へ不利益がないことを内部に明言する。
内部統制システムは、東芝事件をみても社外取締役や委員会設置会社などの形式を整えるだけでは足りない。各社の実情にあった実質的な体制を主体的に整える必要がある。

以上

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