民法改正が不動産賃貸借にどのような影響を与えるか
(民法大改正!家主にどんな影響があるの?)
4、その他のルールの改正による影響
(17)家賃の消滅時効期間はどうなる
【改正のポイント】
(協議による時効の完成猶予の新設)(改正民法151条)
- (1)
- 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意があったときは、次の時点のいずれか早い時まで時効は完成しない。
- (ア)
- 合意があった時から1年経過時
- (イ)
- 合意で協議期間が1年未満と定められていたときは、その期間を経過した時
- (ウ)
- 当事者の一方が相手方に協議続行拒絶を書面又は電磁的記録で通知した時から6か月経過した時
- (2)
- 当事者は(1)で時効が猶予されている間に改めて(1)の合意ができる。ただし、その期間は、本来の時効完成時点から合わせて5年を超えることができない。
- (3)
- (1)の合意は、本来の時効完成時点までに行わなければならない。催告によって時効完成が猶予されている間に行っても時効完成猶予の効力はない。
【改正の理由】
当事者の協議で時効完成を阻止する方法がないと時効中断のための訴訟に直結しやすい。その状況を改善するため新設された。
【不動産賃貸への影響】
新たに規定される時効完成猶予の手段。
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例えば、5年半前に1ヶ月分の家賃が未払いでそのままになっていた場合、この1ヶ月分は、それが未払いになっていることを賃借人が承認する等していない限り、時効消滅している。
改正民法では、未払いになってから5年以内に、賃貸人と賃借人の間でその支払いについて協議することとし、その期間を1年とすると書面等で合意したときは、その1年が経過するまでは時効が完成しないことになる。
必ずしも裁判等をしなくても払ってもらえるようになる手段が加わったことになる。
※ 不動産家賃の消滅時効期間と改正民法
現行民法では5年(現行民法169条)。
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改正民法では、この169条が、様々な短期消滅時効を定めていた条文と共に削除され、統一的な規定である改正民法166条が適用される。
改正民法166条は、債権者が権利を行使することができることを知った日から5年間、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効消滅するとしている。
したがって、不動産の家賃債権は、5年で時効消滅することが原則で、結局、改正前と消滅時効期間は同じ。
(18)家賃滞納等と遅延損害金の利率(改正民法404条)
【改正のポイント】(固定制から変動制へ変更される)
- (1)
- 法定利率を、まずこれまでの年5%から年3%に変更する。
商事法定利率は現行商法514条で年6%とされているところ、同条を削除し、改正民法の法定利率に統一する。 - (2)
- 利息の利率は、特段の意思表示がないときは、当該利息が生じた最初の時点での法定利率による。
- (3)
- 法定利率は、法務省令で3年ごとに変更される。
変更の方法は、前年を除く直近過去5年間の各月における短期貸付け(各月で銀行が新たに行った貸付期間1年未満の貸付け)の平均利率の合計を60で除して計算した割合を「基準割合」とし、直近で法定利率が変更された期(以下「直近変動期」)の基準割合と当期の基準割合との差が1%以上ある場合に、1%刻みで変動させるというもの。1%未満の端数は切り捨てる。
【改正の理由】
低金利が長期間続いており、現行法定利率の年5%(商事法定利率は年6%)が高すぎる。当面これを引き下げて3%にし、以後3年ごとの変動制にする。短期的な政治的経済的影響を除くため過去60ヶ月の平均と比較する。
【不動産賃貸への影響】
家賃等の遅滞があった場合の遅延損害金が年何%になるかは賃貸借契約に定められている場合も多い。しかし定められていない場合はこの法定利率による。
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今回の改正までは、会社が賃貸人又は賃借人であった場合等は年6%(商法に定められている利率)で、そうでない場合は年5%だった。それが改正後はまず3%になり利率が下がる。その後は変動する。
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一定の利率を契約時に約定しておくのが債権管理上は便利。例えば、「家賃その他の本契約から生じる賃借人の債務が支払われなかった場合は、年10%の損害金を付加して支払うものとする。」等の条項を賃貸借契約に入れておく。
(19)将来発生予定の家賃債権を譲渡できるか(改正民法466条の6、467条)
【改正のポイント】
債権譲渡のときに現に発生していない債権も譲渡できる。譲受人は、将来発生する債権を取得する。現に発生していない債権の譲渡も、譲渡人による通知又は債務者の承諾が内容証明等でなされれば、同じ債権を譲渡された他の者に優先できる。
【改正の理由】
現行法は譲渡時に発生していない債権(将来債権)の譲渡に関する規定を置いていない。しかし判例(最高裁平成11年1月29日判決等)で認められている。今回それが明文化された。
※ 将来債権譲渡に関する最高裁平成11年1月29日判決
(医師の将来8年3ヶ月間の診療報酬の一部についての譲渡契約について、6年8ヶ月目以降部分の債権譲渡の効力が争われ、最高裁はこれを有効と判断した)
- 債権譲渡契約締結時に債権発生の可能性が低かったことは、債権譲渡契約の効力を当然に左右するものではない。
- 債権譲渡契約締結当時の譲渡人の資産状況、営業等の推移の見込み、契約内容、契約締結経緯等を総合的に考慮し、期間の長さ等の債権譲渡契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるなどの特段の事情が認められる場合は、当該債権譲渡契約は公序良俗に反するなどとして効力が否定されることがある。
【不動産賃貸への影響】
賃貸人は、資金繰り等必要があれば、将来発生する家賃債権を譲渡できる。譲渡された債権は、それが発生するとそのまま譲受人のものになる。
譲渡したことを内容証明等で、譲渡人(賃貸人)が賃借人に通知するか、又は、債務者(賃借人)が譲渡人(賃貸人)か債権の譲受人のいずれかに承諾通知を出せば、その後同じ家賃債権を譲り受けた他の者に優先できる(以下「通知による対抗要件具備」)。
なお、法人である賃貸人が家賃債権を譲渡する場合は、特例法で、債権譲渡ファイルへの登記でもこれらの通知と同じ効果が認められている。
※ 家賃債権が譲渡された後、不動産が譲渡され、賃貸人が不動産譲受人になった場合はどうなるか。
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この場合でも不動産の所有権移転登記前に、上記通知による対抗要件具備があれば、家賃債権の譲受人が家賃を取得する(最高裁平成10年3月24日判決)。
したがって、賃貸不動産を取得する場合は、将来家賃が既に他に譲渡されていないか賃借人に確認すべき。
(20)賃貸借契約の解除ができない場合(改正民法541条)
【改正のポイント】
契約は、相当期間を定めて催告をしても履行がなければ解除できるのが原則。しかし、催告期間を経過した時点で存在する債務不履行の程度が、契約及び社会通念上軽微なときは解除できない。
【改正の理由】
現行法の下でも、不履行が数量的にごく僅かであったり、付随的義務に違反したのみのときは、原則として解除できないと解すのが一般。この点を明文化した。
【不動産賃貸への影響】
賃貸借契約の解除は、信頼関係が破壊されたといえる債務不履行がなければ解除できないという考えが確立している。
賃貸人が、家賃3か月分の滞納があったため、「1週間以内に支払え。払わなければ解除する。」と通知した場合で、賃借人が1週間以内に2・5ヶ月分だけ払った場合、賃貸借契約を解除できるか。
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その状況が信頼関係を破壊したと評価できるかがポイント。
上記改正もあるので、同様の催告→一部支払いが繰り返されたとか、それまでもしばしば家賃不払いを繰り返していたとかなどの事情がなければ、催告期間経過時点で0・5ヶ月分の未払いが残るだけでは解除は認められないと考えられる。
(21)約款に関する民法改正は不動産賃貸借契約も対象とするか(改正民法548条の2〜4)
【改正のポイント】
- (1)
- ある特定の者(A)が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的なことが契約当事者双方に合理的なものを「定型取引」という。定型取引の内容とするためにAが準備した契約条項の総体を「定型約款」という(548条の2)。
定型約款の条項中、社会通念に照らして信義に反し相手方の利益を一方的に害する条項は、合意がなかったとみなされる(548条の2)。 - (2)
- Aは、変更が相手方の一般的な利益に合う場合、又は、契約目的に反せず、必要性、相当性等に照らし合理的な場合に限り、相手方の同意なく定型約款を変更できる(548条の4)。
【改正の理由】
定型約款が効力を生じる根拠、多数の相手方が不合理な不利益を被ることなく業者側が一方的に定型約款を変更できる場合を明確にする必要があるため。
【不動産賃貸借への影響】
不動産賃貸借契約は、たとえ賃貸人や管理業者が予め契約条項を用意している場合でも、不特定多数の者を相手方とする取引ではなく相手方の個性に着目した取引だから、「定型取引」ではない。したがって、準備された賃貸借契約であっても、「定型約款」ではなく、定型約款についての改正民法の適用はない。
同様に労働(雇用)契約にも適用がない。
以上
