コーポレートガバナンス・コード 〜その内容と対応について〜
第4章 取締役会等の責務
基本原則4
取締役会は、受託者責任・説明責任を踏まえ、持続的成長、中長期的企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべき。
↓
コードは、上場会社の経営陣による適切なリスクテイクを好ましいものとしている。稼ぐ力を取り戻すためにコーポレート・ガバナンスが整備されるべきという「攻めのガバナンス」の考えがコード策定の重要な目的だから。
そのためには、経営陣がリスクテイクしても、後で株主代表訴訟等で責任を問われない体制を作ることが重要とコードは考えている。
・原則4-1 取締役会の役割・責務(1)
取締役会は、経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行い、重要な業務執行の決定を行う場合には戦略的な方向付けを踏まえるべき。
補充原則4-1@
取締役会は、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべき。
↓
概要を開示すればよい。
補充原則4-1A
取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画の実現に最善の努力を行い、中期経営計画が未達に終わった場合は、原因や対応を分析し、株主に説明するとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべき。
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多くの上場会社は中期計画を策定するものの、目標でもあるので、未達となる場合も多い。それを放置せず、継続的な利潤確保に向けて中期計画を活用すべきとするもの。
補充原則4-1B
取締役会は、最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべき。
↓
社長が後継者の計画を立てることを禁止するものではない。
取締役会による監督方法は各上場会社が検討すればよく、社長が立てた計画を取締役会で検討し、合理的な評価を行ったことを議事録で残し続ける方法もある。
・原則4-2 取締役会の役割・責務(2)
取締役会は、経営陣からの提案を歓迎しつつ、提案について独立した客観的な立場において検討するとともに、提案が実行される際は、迅速・果断な意思決定を支援すべき。
経営陣の報酬について、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべき。
↓
第1文は、リスクテイクを支える環境整備をより具体的に述べたもの。
第2文は、業績向上には、固定報酬よりもインセンティブとして業績連動報酬等が好ましい場合があるという考えに基づく。「インセンティブ付けを行うべき」としているので、具体的で踏み込んだ要請になっている。それをしない場合は理由の説明が求められる。
補充原則4-2@
経営陣の報酬は、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべき。
↓
適切な割合を設定した結果、連動報酬等を導入しないのが適切と判断することもあり得る。必ず連動報酬等を取り入れなければならないわけではない。
・原則4-3 取締役会の役割・責務(3)
取締役会は、
適切に会社の業績等を評価し、それを経営陣幹部の人事に適切に反映すべき。
適時正確な情報開示が行われるよう監督するとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべき。
経営陣・支配株主等の関連当事者と会社とで生じ得る利益相反を適切に管理すべき。
↓
基本原則4で要請される独立した客観的な立場からの監督を具体化するもの。
第三文は、取締締役の選解任、報酬、関連当事者との取引、買収防衛策等の利益相反場面での独立した客観的な立場を要請している。
補充原則4-3@
取締役会は、経営陣幹部の選任・解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべき。
補充原則4-3A
取締役会は、内部統制システムやリスク管理体制の適切な構築、その運用の監督に重点を置くべき。個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。
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実効性の高い監督を行うためのあるべき取締役会の姿を述べたもの。
・原則4-4 監査役及び監査役会の役割・責務
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、独立した客観的な立場で適切な判断を行うべき。
監査役及び監査役会は、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべき。
↓
上場会社の多くが監査役会設置会社であり、監査役・監査役会の責務が果たされることを期待したもの。監査役会設置会社ではない会社でも、監査等委員会、監査委員会に同様の役割が期待される。
補充原則4-4@
監査役会は、社外監査役の強固な独立性と、常勤監査役の高度な情報収集力を組み合わせて、監査役会の実効性を高めるべき。
監査役・監査役会において、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべき。
・原則4-5 取締役・監査役等の受託者責任
取締役・監査役及び経営陣は、株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ、会社や株主共同の利益のために行動すべき。
・原則4-6 経営の監督と執行
上場会社は、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべき。
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例えば、営業担当取締役等、業務を具体的に担当している取締役では、自らが担当した業務を客観的に評価することは容易ではない。自己監督になるから。そこで、非業務執行取締役の活用を検討すべきとしている。
・原則4-7 独立社外取締役の役割・責務
経営陣から独立した社外取締役に期待される役割・責務を4点あげている。
(@)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
(A)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(B)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(C)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
・原則4-8 独立社外取締役の有効な活用
上場会社は、独立社外取締役を少なくとも二名以上選任すべき。
業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも三分の一以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべき。
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第1文は、独立社外取締役を複数名設置すれば、その存在が活かされる可能性が高まるとの考え方に基づく。
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この点、会社法では社外取締役を一人も置かない場合はその理由を説明すべきとされているだけあり、東証上場規程でも、独立役員(独立社外取締役又は独立社外監査役)を一人以上置くことが求められているだけである(上場規程の企業行動規範第4章第4節のうち、実効性確保手段の対象となる「遵守すべき事項」として規定されている)。
これに対し、コードは、2人以上の独立社外取締役を置くことを求めるものだから、会社法や上場規程を上回る要請に踏み込んでいる。理由は、コードが、独立社外取締役はコーポレートガバナンスの実現に重要な役割を果たせるという考えに立って策定されたから。
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しかし、コードが「すべき」としている事項は、あくまでコンプライ・オア・エクスプレインの対象であるから、上場会社が独立社外取締を複数置かないことも当然に可能。その際は、置かなくてもコーポレートガバナンス上問題が生じる恐れがないこと、代替措置が存在すること等をコーポレートガバナンス報告書で説明すればよい。
第2文は、あくまで自主的な判断で必要と考える上場会社のみが適用対象。
補充原則4-8@
独立社外取締役は、独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべき。
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独立社外取締役間で意見が交わされ取締役会が活性化することが期待されている。
補充原則4-8A
独立社外取締役は、互選により筆頭独立社外取締役を決定することなどで、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべき。
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筆頭独立社外取締役を置くことは例示。独立社外取締役が他の経営陣と連携する体制の整備が要請されている。
・原則4-9 独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立性を実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべき。
取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべき。
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「社外取締役」の要件は、会社法において定められている。しかし「独立」社外取締役といえる要件は、会社法にもコードにもない。
独立性は、金融商品取引所の上場規程で、主要な取引先関係者ではないことや多額の報酬を当該上場会社から得ていないこと等が要件とされている。
コードは、金融商品取引所が定めるこの独立性要件を少なくとも満たすことを前提に、さらにプラスアルファで独立性を確保する基準があるかの検討を求めるもの。
しかし、その結果、金融商品取引所の基準で十分と判断するのであれば、その基準を開示すればよい。
・原則4-10 任意の仕組みの活用
上場会社は、必要に応じて任意の仕組みを活用することで、統治機能の更なる充実を図るべき。
補充原則4-10@
上場会社が監査役会設置会社で、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合は、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべき。
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任意の工夫の例として、独立社外取締役を構成員とする諮問委員会を挙げている。
・原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき。
監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が一名以上選任されるべき。
取締役会は、取締役会全体の実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能向上を図るべき。
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第2文につき、財務・会計に関する適切な知見は、会計監査人が適切な会計監査をしているかの判断に資するためのもの。
補充原則4-11@
取締役会は、全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と関示すべき。
補充原則4-11A
社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、必要な時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべき。例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべき。
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取締役、監査役に対し、兼任数を、取締役、監査役として必要な時間・労力を当該上場会社のために使える、合理的な範囲に絞ることを求めている。
補充原則4-11B
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべき。
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取締役会全体の評価のため、各取締役の自己評価を求めている。
・原則4-12 取締役会における審議の活性化
取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成に努めるべき。
補充原則4-12@
取締役会は次の取り扱いを確保しつつ、審議活性化を図るべき。
- (@)取締役会の資料が、会日に十分に先立って配布されるようにすること
- (A)取締役会の資料以外にも、必要に応じ、会社から取締役に対して十分な情報が(適切な場合には、要点を把握しやすいように整理・分析された形で)提供されるようにすること
- (B)年間の取締役会開催スケジュールや予想される審議事項について決定しておくこと
- (C)審議項目数や開催頻度を適切に設定すること
- (D)審議時間を十分に確保すること
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取締役会が形骸化することを防ごうとするもの。
重要事項でも、既に実質的に決定されていて取締役会が形式的な場合もある。逆に、取締役会で審議される事項が多すぎる場合もある。それらの是正を求めるもの。
・原則4-13 情報入手と支援体制
取締役・監査役は、能動的に情報を入手すべきで、必要に応じ、会社に対して追加の情報提供を求めるべき
上場会社は、人員面を含む取締役・監査役の支援体制を整えるべき
取締役会および監査役会は、各取締役・監査役が求める情報の円滑な提供が確保されているかどうか確認すべき。
補充原則4-13@ は、上記原則第1文の行動を求めるもの。
補充原則4-13A
取締役・監査役は、必要な場合は、会社の費用で外部の専門家の助言を得ることも考慮すべき。
補充原則4-13B
上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保し、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきとしたうえ、例として、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任を挙げている。
・原則4-14 取締役・監査役のトレーニング
新任者をはじめとする取締役・監査役は、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべき。
上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきで、取締役会はこの対応が適切にとられているか確認すべき。
補充原則4-14@
取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべき。
補充原則4-14A
上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示すべき
第5章 株主との対話
基本原則5
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべき。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の関心・懸念に正当な関心を払い、自らの経営方針を分かりやすく説明し、ステークホルダーの立場に関する理解と適切な対応に努めるべき。
↓
経営陣に対し、株主総会以外でも株主と建設的な対話を行い、株主の関心・懸念を把握して適切な対応を行うことを求めたもの。
株主との建設的な対話に関しては、スチュワードシップ・コードがある。それとコーポレートガバナンス・コードが相まって建設的な対話が実現されることが期待されている。
・原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針
上場会社は、株主からの対話(面談)の申込みに対し、合理的な範囲で前向きに対応すべき。
株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示すべき。
補充原則5-1@
株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役(社外取締役を含む)が面談に臨むことを基本とすべき。
↓
株主の面談に全部応じるのは不可能なので、面談の理由、持株数などを考慮して面談するかどうかを決めることになる。コードはこのような対応を否定するものではない。
補充原則5-1A
株主との建設的な対応を促進するための方針には次の(@)〜(D)を記載すべき。
- (@)経営陣または取締役のうちで株主との対話全般を統括する者の指定
- (A)対話を補助するIR担当、総務、財務、法務等社内部門が有機的に連携するための方策
- (B)個別面談以外の投資家説明会やIR活動などの対話手段の充実への取り組み
- (C)把握された株主の意見・懸念を経営幹部、取締役会適切かつ効果的にフィードバックするための方策
- (D)対話に際してのインサイダー情報の管理に関する方策
↓
(D)につき、未公表の重要事実が株主との対話で伝達されることは、基本的にないようにすべき。仮に未公表の重要事実が伝達されたら株主が公表まで株式売買できないことになるので、事前に株主の同意を得るべき。仮に未公表の事実を伝達する場合は、株主が、情報の第一次受領者としてインサイダー取引を行わないことをどうやって担保するかの方策も考えられるべき。
補充原則5-1B
上場会社は、必要に応じ、自らの株主構造の把握に努めるべきであり、株主も、こうした把握作業にできる限り協力することが望ましい。
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上場会社は、実質株主の把握に努め、株主側も協力することが望ましいとする。ただし、「必要に応じ」だから、必要がなければ実質株主の把握に努める必要はない。
・原則5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表
上場会社は、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために具体的に何をするのか、株主に分かりやすく説明すべき。
↓
資本効率とは、資本がどれだけ効率的に利益を生みだしているかということだから、目標を示すに当たってはROE等の利用が考えられる。
以上