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コーポレートガバナンス・コード 〜その内容と対応について〜

4 コードの具体的内容と検討ポイント

第1章 株主の権利・平等性の確保
基本原則1

上場会社は、株主の権利が実質的に確保される対応、権利行使の環境整備を行うべき。
株主の実質的な平等性を確保すべきで、少数株主や外国人株主について十分に配慮すべき。

・原則1-1 株主の権利の確保

株主総会での議決権等の株主の権利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うべき。

補充原則1-1@

取締役会は、株主総会で可決されたが相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべき。

「相当数の反対票」の具体的な解釈は、各上場会社の合理的な判断による。一般に、会社提案が90%台で可決されていることから、10%程度の反対は相当数の反対とはいえないであろう。

補充原則1-1A

総会決議事項の一部を取締役会に委任するよう株主総会に提案するに当たっては、取締役会においてコーポレートガバナンスに関する役割・責務を十分に果たし得るような体制が整っているか考慮すべき。
それが整っていると判断する場合は、上記の提案を行うことが、経営判断の機動性・専門性の確保の観点から望ましい場合がある点を考慮に入れるべき。

第2文は、例えば、役員報酬の具体的配分や剰余金の配当に決定等の取締役会への委任が対象となる。ただし、取締役会の判断に委ねることが望ましい場合があることを「考慮に入れるべき」としているだけだから、取締役会に委ねるべきとしているのではないことに注意を要する。

補充原則1-1B

上場会社は、株主の権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべき。少数株主にも認められている特別な権利(違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)は、権利行使に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮すべき。

具体的には、委任状勧誘等の場面において、株主が株主名簿の閲覧等を求めた際に、不当に対応を遅延するなどしないことが例としてあげられる。


・原則1-2 株主総会における権利行使

株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべき。

補充原則1-2@

株主総会で株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべき。

株主総会の株主判断に資する情報があれば、招集通知に記載すべき事項でなくても、公表その他の方法で提供すべきとしている。

補充原則1-2A

株主が総会議案の検討期間を確保できるよう、招集通知記載情報の正確性を担保しつつ、その早期発送に努めるべき。
招集通知記載情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnetや自社のウェブサイトにより電子的に公表すべき。

海外の機関投資家は、株主総会の開催時期の集中もあって、議案検討期間が実質的に限られている。そのことに対応しようとするもの。
他方、情報の正確性を担保しなければならず、監査時間の確保も必要。両方を意識しなければならない。

補充原則1-2B

株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべき。

6月に総会を開催しない上場会社は、既に適切な設定と言える。
※ 有識者会議では、3月期決算の上場会社に株主総会の開催日を7月にすることの検討を求めることも議論された。

補充原則1-2C

議決権の電子行使を可能とするための環境作り「議決権電子行使プラットフォームの利用等」や招集通知の英訳を進めるべき。

機関投資家や海外投資家の比率等を踏まえ、招集通知の一部のみ英訳でも足りる。議決権の電子行使は、ICJにより運営されている議決権電子行使プラットフォームの利用だけでなく、会社法上認められている電磁的方法による議決権行使でもよい。
※ 上記プラットフォームを利用している上場会社は400社を超える。

補充原則1-2D

信託銀行等の名義で株式を有する機関投資家等が、自ら議決権の行使を行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、信託銀行等と協議しつつ検討すべき。

実質株主の株主総会への出席・議決権行使を認めなければならないとするのではなく、希望があった場合に備え対応を検討することを求めるもの。
名義株主(信託銀行等)から実質株主が委任状を受ける方法も考えられる。


・原則1-3 資本政策の基本的な方針

資本政策の基本的な方針について説明を行うべき。

コードは、企業の「稼ぐ力」の回復・維持を重要な目的にしているから、ここでいう資本政策とは、新規上場の際に用いられる株主構成などの意味ではなく、資本をどう効率的に利益につなげているかという意味と考えられる。そのため、ROEや配当性向等がその内容になり得る。
※ 機関投資家は、例えば、「ROEが翌期予想を含め4期連続8%未満」の場合に取締役選任決議に反対する基準を設けるなどし始めている(平成27年9月7日日本経済新聞 朝刊)。

・原則1-4 いわゆる政策保有株式

毎年、取締役会で主要な政策保有についてその中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべき。 政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべき。

「政策保有株式」は、主として、株式の持合いを意味する。
安定株主等の政策目的で株式の持ち合いを行う場合、利潤の追求が適正にされているか、、株主との利益相反は生じていないか等について疑念が生じ得るので、合理的に説明できる理由が必要。
しかし、コードは、政策保有株式の処分を求めてはいない。基準の策定・開示は、政策保有株式全体についてのもので足りる。
なお、政策保有株式は、業務提携等を通じて事業の利益につながるという面もあり得る。

・原則1-5 いわゆる買収防衛策

買収防衛は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならず、導入・運用は、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性を検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべき。

ライツ・プラン(新株予約権を利用した防衛策等)が想起されるものの、それだけが対象ではない。
買収防衛策に対しては、経済産業省・法務省が平成17年5月27日に公表した買収防衛策指針がある。東証でも、上場規程で、買収防衛策の導入について開示の十分性や流通市場への影響、株主の権利の尊重が義務づけられている。
これらを遵守すれば、原則の言う必要性・合理性の検討や適正な手続確保を満たしていると考えられる。

補充原則1-5@

公開買付けされた場合の取締役会の対応についてのもの。


・原則1-6 株主の利益を害する可能性のある資本政策

支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)は、既存株主を不当に害することのないよう、必要性・合理性を検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべき。

・原則1-7 関連当事者間の取引

役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合は、会社や株主共同の利益を害することのないよう、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示すべき。また、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべき。

利益相反取引等、会社法で取締役会の承認が必要と定められている取引に限られず、取引の重要性やその性質に応じて適切な手続を求めるもの。非常に重要・多額な取引等に対しては、社外取締役、外部専門家などからなる検討委員会からの意見を求めることも考えられる。


第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
基本原則2

会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを認識し、これらステークホルダーとの適切な協働に努めるべき。
取締役会・経営陣は、ステークホルダーの権利や事業活動倫理を尊重する企業文化の醸成にリーダーシップを発揮すべき。

・原則2-1 中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定

上場会社は、社会的責任を踏まえ、ステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ、中長期的な企業価値向上を図るべきで、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべき。

経営理念は、非財務情報の一つ。名称は、倫理憲章、行動規範など何でもよい。

・原則2-2 会社の行動準則の策定・実践

上場会社は、その構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべき。
取締役会は、行動準則の策定・改訂の責務を担い、事業活動の第一線まで浸透し、遵守されるようにすべき。

多くの上場会社は、従業員の行動規範等を既に策定している。

補充原則2-2@

取締役会は、行動準則の実践について、適宜または定期的にレビューすべき。
その際、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存するか重点を置くべきで、形式的な遵守確認に終始すべきではない。


・原則2-3 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題

上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーをめぐる課題について、適切な対応を行うべき。

具体的な対応は、各上場会社が、規模や業種・業態等に応じて判断する。

補充原則2-3@

取締役会は、サステナビリティーを巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部と認識して適確に対処すべき。

対処内容の開示自体は求められてはいない。


・原則2-4 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保

社内に多様な視点・価値観が存することは、会社の持続的な成長を確保する強みとなり得るとの認識に立ち、女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべき。

女性の活躍は代表的な例。多様性は、性別に限られるわけではなく、経歴、年齢、障害の有無、国籍等種々に及び得る。

・原則2-5 内部通報

従業員等が、不利益を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべき。
取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべき。

公益通報者保護法が施行されており、既に内部通報の整備をしている会社は多い。その実効性が求められている。

補充原則2-5@

経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべき。

例としてあげられている社外取締役と監査役の合議体を仮に窓口とする場合は、事務局が必要となるのが実際と思われる。法律事務所を通報窓口とすることも独立した窓口に当たる。

第3章 適切な情報開示と透明性の確保
基本原則3

財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、それ以外の情報提供にも取り組むべき。
その際、取締役会は、とりわけ非財務情報が、正確で分かりやすく、有用性の高いものとなるようにすべき。

有用な情報が分かりやすく伝わることが株主との対話の基盤となるという考えに基づくもの。

・原則3-1 情報開示の充実

以下の(@)〜(D)の事項を開示して主体的な情報発信を行うべき。

  • (@)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
  • (A)本コード(原案)のそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針

    「基本的な考え方」は、コーポレートガバナンスに関する総論のこと。
    「基本方針」は、コードの各原則にどう対応をするかについての方針の概略。
  • (B)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続

    報酬の総額や種類(固定・業績連動・株式・賞与・退職金の有無・内容等)の開示が考えられる。
  • (C)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
  • (D)取締役会が(C)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明

    選任・指名の際の判断要素や決定手続、また、個々の選任・指名についての説明の開示が求められている。

会社法に基づき社外取締役・社外監査役は、株主総会参考書類で候補者とした理由が記載されるものの、それ以外の取締役・監査役については、そのような理由の記載は求められていない。また本原則は、取締役、監査役に限らず、開示対象を経営陣幹部としている。人事に関する情報開示を、会社法より相当踏み出すことを求めている。

補充原則3-1@

上記情報開示で、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべき。

補充原則3-1A

海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべき。


・原則3-2 外部会計監査人

外部会計監査人(公認会計士または監査法人)と上場会社の双方は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべき。

補充原則3-2@

監査役会は、次の(@)(A)を行うべき。

  • (@)外部会計監査人候補の適切な選定、評価の基準の策定
  • (A)外部会計監査人に求められる独立性と専門性を有しているかの確認

    平成26年改正会社法で、株主総会に提出される会計監査人の選解任等に関する議案は、監査役会設置会社においては監査役会が決定することとされた。

会社法340条1項には監査役、監査役会による会計監査人の解任事由が法定されている。なお、解任は監査役全員の同意が必要(同条2項、4項)。
それは、
@ 職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき。
A 会計監査人としてふさわしくない非行があったとき。
B 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。
の3つ。
また、監査役会が会計監査人の選解任等に関する議案の決定を行う際の対応は、日本監査役協会が指針を公表しており、欠格事由の有無、内部管理体制、監査報酬の水準、独立性に関する事項等を考慮することとされている。
これらが参考になる。

補充原則3-2A

取締役会および監査役会は、次の(@)〜(C)を行うべき。

  • (@)高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保
  • (A)外部会計監査人からCEO・CFO等の経営陣幹部へのアクセス(面談等)の確保
  • (B)外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保
  • (C)外部会計監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合や、不備・問題点を指摘した場合の会社側の対応体制の確立
                         

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第4章 取締役会等の責務 ≫

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