企業法務・企業再生のためのリーガルサービスを目指します 中島成総合法律事務所

中島成総合法律事務所 ホーム会社法コーポレートガバナンス・コード 〜その内容と対応について〜 ≫ 1 コーポレートガバナンス・コードの策定とその背景

コーポレートガバナンス・コード 〜その内容と対応について〜

1 コーポレートガバナンス・コードの策定とその背景

策定

平成26年6月「日本再興戦略 改訂2014」が閣議決定。

その中の成長戦略(第三の矢)で、コーポレート・ガバナンスの改革が言及され、東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議でコーポレートガバナンス・コードを策定することとなり、平成27年3月5日、同有識者会議がコーポレートガバナンス・コード(原案)を発表した。
東京証券取引所は、これをコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」)とし、コードを尊重すること、コードを実施しない場合には、その理由を説明すること、コードを実施しない場合の理由の説明は、コーポレート・ガバナンス報告書に記載すること等の上場規程の改正を行い、同改正は、平成27年6月1日から施行された。

コードは、コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、そうでなければ従わない理由を説明するか)を上場会社に求めている。コードの原則を実施せず、その理由を説明することも許容される。

ただし、コンプライもエクスプレインも行わない場合は、公表措置等の制裁の対象となる(有価証券上場規程508条1項)。

コード策定の背景

策定の背景には、コーポレートガバナンスの充実が、企業の稼ぐ力を伸ばすために重要という考えがある(「攻めのガバナンス」)
この点が、これまで、コーポレートガバナンスが、どちらかと言えば不祥事防止のために語られていたこととの違い。

コーポレートガバナンスとは何か

コーポレートガバナンスとは、会社のあるべき統治システムのこと。
日本でこの議論を盛んにしたきっかけは、総会屋への利益供与や官僚への接待による贈賄など、大企業の不祥事が重なったため、社会の厳しい批判が起きるとともに問題意識が高まったことにある。
なぜ企業が違法行為をし続けるのか?日本の会社統治のシステム自体に根本的な原因があるのではないか?

この点に関し、「会社は誰のためにあるのか?」という議論がなされる。
長い間、日本の大企業の多くは、株主のためでなく経営者のために会社支配がなされてきたといえる。株式も、銀行や保険会社、主要取引先などの安定株主が持ち合って批判が出ないようにし、株主総会はできるだけ手短に終わるのが最良とされた。また、次期社長や取締役、監査役を誰にするかの人事を実質的に握る社長に対して、その監督機関たるべき取締役会や監査役が意見をすることは実際には困難という問題もあった。
このような経営に透明さと批判がない状態のなかでは、社長に気に入られる結果を出すためなら、違法行為すら出世のための必要悪、会社のための美徳と化してしまう。しかし、会社の所有者は会社に出資をした株主であり、株主以外にも、取引先、従業員、債権者、顧客等様々なステークホルダー(利害関係者)が存在する。
会社は、経営者のためにあるのではなく、所有者である株主のためにあるということが基本。それと共に、様々な関係者の利害と共にあることを常に意識する必要がある。

株主の資産を預かって事業を担当している代表取締役らは、その資産の使い方について、株主や投資を考えている人々に対して、納得し理解してもらうために必要な説明を偽りなく行なう責任(説明責任=アカウンタビリティ)がある。これを果たすためには違法経営はできない。また、ビジネスや投資が国際化している点からも、企業は自社の情報を透明に開示しなければならず、そうしなければ投資家等の信用が得られない。

コーポレートガバナンスの議論とは、経営を透明化し適正な批判を受け入れられる会社の統治システムをどうやってつくるかという議論。そのことによって、
@ 会社を違法行為や社会的非難から守り、
A もっとも適切な経営体制を維持して経営の効率化・機動化を図ろうとする議論。

最近のコーポレートガバナンスをめぐる3つの動き
(1)スチュワードシップ・コードの策定

平成26年2月、金融庁での有識者会議によって「責任ある機関投資家の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)が策定された。会社との間の建設的な対話により、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指す機関投資家の行動原則で、コーポレートガバナンス・コードと「車の両輪」となることが期待されている。
スチュワードシップ・コードは機関投資家を名宛人とする。

※ スチュワードシップ・コードを受け入れることを表明した機関投資家は、平成27年6月11日現在、金融庁の発表によれば、

信託銀行等7
投信・投資顧問会社等133
生命保険会社17
損害保険会社4
年金基金等23
その他(議決権行使助言会社他)7
合計191社

(2)平成26年改正会社法

平成27年5月1日施行。コーポレートガバナンスの強化も重要な目的とした。
コーポレートガバナンスの強化のための改正として、社外取締役、社外監査役の社外性要件厳格化、監査等委員会設置会社の創設、会計監査人の選任解任議案は監査役または監査役会が決定する。親子会社の内部統制整備が施行規則ではなく会社法自身に規定された等がある。

(3)コーポレートガバナンス・コード

金融商品取引所の上場規程によって、平成27年6月1日施行

コードには、5つの基本原則、30の原則、38の補充原則がある(原則 計73)。
基本原則と原則は次のとおり。

第1章 株主の権利・平等性の確保
基本原則1 原則1-1 株主の権利の確保
原則1-2 株主総会における権利行使
原則1-3 資本政策の基本的な方針
原則1-4 いわゆる政策保有株式
原則1-5 いわゆる買収防衛策
原則1-6 株主の利益を害する可能性のある資本政策
原則1-7 関連当事者間の取引
※ 原則1の補充原則は9ある。
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
基本原則2 原則2-1 中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
原則2-2 会社の行動準則の策定・実践
原則2-3 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題
原則2-4 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保
原則2-5 内部通報
※ 原則2の補充原則は3つある。
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
基本原則3 原則3-1 情報開示の充実
原則3-2 外部会計監査人
※ 原則3の補充原則は4つある。
第4章 取締役会等の責務
基本原則4 原則4-1 取締役会の役割・責務(1)
原則4-2 取締役会の役割・責務(2)
原則4-3 取締役会の役割・責務(3)
原則4-4 監査役及び監査役会の役割・責務
原則4-5 取締役・監査役等の受託者責任
原則4-6 経営の監督と執行
原則4-7 独立社外取締役の役割・責務
原則4-8 独立社外取締役の有効な活用
原則4-9 独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
原則4-10 任意の仕組みの活用
原則4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
原則4-12 取締役会における審議の活性化
原則4-13 情報入手と支援体制
原則4-14 取締役・監査役のトレーニング
※ 原則4の補充原則は19ある。
第5章 株主との対話
基本原則5 原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針
原則5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表
※ 原則5の補充原則は3つある。

2 コーポレートガバナンス報告書、コードに対する株主総会での対応

(1)コーポレートガバナンス報告書への記載とその提出時期

@ コードの各原則を実施(コンプライ)しない場合の理由の説明(エクスプレイン)
A 実施する場合に求められる開示事項
この2つは、コーポレートガバナンス報告書に記載しなければならない。

コーポレートガバナンス報告書は定時株主総会終了後遅滞なく提出するのが本来。

経過措置で、コードに対応した説明は、初年度は平成27年6月1日以後最初に開催される定時株主総会の日以後、準備ができ次第速やかに、遅くとも当該定時株主総会の6カ月後までに提出すればよい。

(2)株主総会での対応

しかし、改正上場規程は平成27年6月1日に施行されているので、それ以降の株主総会で、コードへの対応が株主から質問されることはあり得る。

コードは、従う原則、従わずに理由を説明する原則を上場会社が実情に即して十分検討することこそ求めている。
そのため、総会時点でコンプライしておらず、かつ、コンプライするか検討中であれば、その検討状況を説明すれば足りる。コードに関するコーポレートガバナンス報告書の提出期限までに結論を出すべく検討していることを具体的に説明すればよい。
ただし、上場会社は、既にコードの各内容を実施している場合も多い。そのような原則については、実施していることを説明することになる。
したがって、実施している原則と、現在検討中の原則を仕分けしておく準備は必要。

※ 株主総会における法的な説明義務(会社法314条)は、決議事項および報告事項の審議のために必要な範囲に限られる。コードへの対応状況の質問がその範囲でなければ、法的な説明義務があるとは言えない。ただし、質問があれば説明するのが一般と思われる。その際も、上記対応でよい。

3 コードの特徴

(1)プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)

詳細なルール(細則)ではなく、重要な原則を示して、上場会社各自の実情に応じた対応を求めるためのもの。
用語も、例えば、資本政策、独立社外取締役等について定義が置かれていない。第一義的には各上場会社が、コードの精神に照らして解釈する。コードは、上場規程によるソフトローであり、法規範ではない。

(2)コンプライ・オア・エクスプレインの採用

原則に従わない場合は、ビジネスの実情に合わないことや、実施しなくても他の方法で代替されていて問題がないこと等を説明することになる。

(3)開示事項

各原則の中に開示すべきとされている事項がある。この開示事項は、原則に従わない理由と共に、コーポレートガバナンス報告書に記載しなければならない。
他方、各原則の中には説明すべきとされている事項もある。コードに従って説明することとする場合も、これについてはコーポレートガバナンス報告書へ記載する必要はない。ウェブサイトにアップロードすること等でもよい。
なお、ここでいう説明事項は、原則に従わない場合の理由の説明ではなく、コード自体で説明すべきとされている具体的な事項を指す

したがって、コードへの対応は次のとおりとなる。


コンプライする(従う)→

  • コードで開示すべきとされている事項をコーポレートガバナンス報告書で開示する。
  • コードで説明すべきとされている事項をコーポレートガバナンス報告書に限らず、自社のウェブサイト、株主総会等で説明する。

コンプライしない(従わない)→

  • 従わない理由をコーポレートガバナンス報告書でエクスプレイン(説明)する。

(4)基本原則・原則・補充原則という三層構造

いずれもコンプライ・オア・エクスプレインの対象となる。ただし、基本原則を具体化するものが原則で、それをさらに具体化するのが補充原則という関係にあるので、結局、補充原則に従えば、原則や基本原則に従うことになる場合が多い。

4 コードの具体的内容と検討ポイント ≫

目次へ戻る

お問合わせ

企業法務・倒産法・会社の民事再生 中央区銀座 中島成総合法律事務所