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民法改正と高齢化社会における賃貸業のリスク

2.リスクの場面と対応方法

(1)孤独死・自殺と賃貸借契約
ア、 【賃借人が亡くなると賃貸借契約の効力はどうなるか】(No.27)
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  1. (相続人がいる場合)
    賃借権も財産権の一種だから、賃借人が亡くなると相続される。したがって、賃貸借契約は賃借人が亡くなっても消滅せず、相続人との間で効力を有している。

    賃貸人としては、相続人との間で賃貸借契約の合意解除、賃料滞納がある場合は相続人に対して賃貸借契約解除などの措置を取って初めて、賃貸借契約を終了させることができることになる。
    なお、相続人が複数いる場合、賃貸借契約解除の意思表示は相続人全員に対してしなければならない(最高裁昭和36年12月22日判決)。
  2. ※ 高齢者との賃貸借契約締結にあたっては、相続人の確認をしておくことが重要。

  3. (相続人がいない場合)
    相続人がいない場合も、賃借権は財産権の一種だから、ただちに賃貸借契約の効力がなくなることはない。
    相続人がいないとき(いることが明らかでないときを含む)は、遺産は法人とされ、家庭裁判所が、利害関係人等の請求で、相続財産管理人を選任しなければならない(民法951条、952条)。
    その後、官報掲載等の裁判所の手続によっても相続人が見つからなかったときは、相続財産管理人は、遺産に係る債務の弁済や換価などを行い(同法957条)、最終的に残った遺産は国庫に帰属することになる(同法959条)。

    したがって、相続人がいるかどうか不明の場合は、法的には、利害関係人が裁判所に相続財産管理人選任を申し立て、相続財産管理人との間で、賃貸借契約の解除、換価等の処理をすることになる。
    なお、賃貸人もこの利害関係人に含まれる。
イ. 【相続人の調査】

賃貸借契約の解除や賃料請求、残置物撤去、場合によっては自殺等による損害賠償請求のため、賃借人が亡くなったら、賃貸人としては相続人を探す必要が生じる。連帯保証人がいたとしても、相続人と無関係な場合もある。

<相続人の範囲>

相続人の範囲、どのような順で相続人になるかは法定されている。

  • 配偶者がいれば、配偶者は常に相続人となり、
  • 子供がいれば子供と配偶者が相続人となる。
  • 子供がいなければ親と配偶者が相続人となる。
  • 親も生存していなければ、兄弟姉妹と配偶者が相続人となる。

(民法887条、890条)

(代襲相続)

子供が亡くなっていれば、その子供である孫が、亡くなった子供に代わって(代襲)相続する。さらに孫も亡くなっていれば、孫の子供が亡くなった孫に代わって代襲相続する。
兄弟姉妹が亡くなっていれば、その兄弟姉妹の子供(甥・姪)が代襲相続する。しかし、甥・姪が亡くなっていても、それ以上、その甥・姪の子供は代襲相続しない。(民法889条)

高齢者が亡くなった場合、配偶者がいなければ、子供や孫が相続人となる。
子供がいない高齢者は、親は亡くなっている場合が多いとしても、兄弟姉妹、あるいは兄弟姉妹の子供がいる可能性は高い。

賃貸人は、賃貸借契約時点などで高齢者の相続人を把握していなければ、戸籍を調査する必要がある。
高齢者との賃貸借契約では、「相続人欄」等を設け、正確な相続人を申告してもらっておくべきである。できれば戸籍謄本を添付してもらうべき。

権利行使するために戸籍記載事項を確認する必要がある者は、戸籍謄本の交付を請求できる(戸籍法10条の2)。身寄りのない高齢者が亡くなれば滞納賃料がすぐに発生するのが通常なので、賃貸人は、債権者として戸籍調査ができる。住民票も同じ(住民基本台帳法12条の3)。

ウ.【相続放棄との関係】

高齢者が亡くなり負債の方が資産より多い場合、相続人がいても相続放棄をする場合がある。相続放棄した者は、相続人ではなかったことになり、相続人としての責任を法律上免れるから、その者に対して延滞賃料請求や残置物撤去等を法律上は請求できなくなる。

しかし、注意すべきは、相続人のある者が相続放棄しても、他の相続人又は次順位の相続人が相続人となるという点。

例えば、配偶者と子供が相続放棄したことが分かった場合、高齢者の父母は亡くなっているとしても、兄弟姉妹が相続人になるので、賃貸借契約の解除等について、賃貸人は、今度は兄弟姉妹を探して交渉しなければならない。

<相続放棄の有無の調べ方>

相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄がなされているかを照会する手続があり(家事審判法)、一般に、賃貸人等の債権者は利害関係人として照会することができる。

エ.【内縁夫婦と賃借権の相続】

亡くなった賃借人に相続人がいなくても、内縁(結婚していないけれど事実上夫婦と同様の関係にあった同居者)がいるときは、その内縁の者が建物の賃貸借契約を承継する(借地借家法36条)。これも注意を要する点。

オ、【自殺と損害賠償】(No.28)
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【参考判例】 東京地方裁判所平成19年8月10日判決

Aに、平成15年10月、アパートの1室を家賃6万円で賃貸し、連帯保証人がついた。Aは、平成18年10月19日、居室内で自殺した。Aには、子がなく、父親もすでに死亡していたから、母親が単独相続した。賃貸人は、連帯保証人と相続人に対し、損害賠償を請求した。

(裁判所の判断) (賃貸人は、居室内で賃借人が自殺した場合、損害賠償請求できるか)

賃借人が賃貸目的物内において自殺をすれば、心理的な嫌悪感が生じ、一定期間、賃貸に供することができなくなり、賃貸できたとしても相当賃料での賃貸ができなくなることは、常識的に考えて明らかだから、賃貸目的物内で自殺しないようにすることも賃借人の善管注意義務の対象に含まれる。
したがって、これによる損害賠償債務はAの賃貸人に対する債務だから、Aの相続人も、Aの連帯保証人も、損害賠償義務を負う。

(自殺についての告知義務の範囲)

自殺があった建物(部屋)を賃借して居住することは、一般的に、心理的に嫌悪感を感じる事柄だから、賃貸人が、そのような物件を賃貸しようとするときは、原則として、賃借希望者に対して、重要事項の説明として、当該物件において自殺事故があった旨を告知すべき義務がある。
しかし、自殺の後に新たな賃借人が居住をすれば、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れる。また、本件建物の所在地が東京都世田谷区という都市部であり、かつ、本件建物が2階建10室の主に単身者を対象とするワンルームの物件であることからすれば、近所付き合いも相当程度希薄と考えられる。 したがって、賃貸人には、自殺事故の後の本件居室の最初の賃借人には自殺を告知すべき義務がある。しかし、当該賃借人が退去した後にさらに賃貸するに当たっては、告知する義務はない。

また、本件建物は2階建10室の賃貸用の建物であるが、自殺があった本件居室と両隣の部屋や階下の部屋とでは、感じる嫌悪感の程度にかなりの違いがあることは明らかだから、賃貸人には、他の部屋を新たに賃貸するに当たり、賃借希望者に自殺があったことを告知する義務はない。

(損害額)

本件居室を自殺から1年間賃貸できず、その後賃貸するに当たっても従前賃料の半額の月額3万円での賃貸しかできず、他方、自殺事故から3年後には、従前賃料の月額6万円での賃貸が可能になっていると推認するのが相当である。
(6万円×12ヶ月 + 3万円×24ヶ月=144万円が損害額)

カ. 【自然死と不動産仲介業者の重要事項説明義務】(No.29)
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【参考判例】 東京地方裁判所平成18年12月6日判決 (争点)

アパートの階下で自然死があった事実は、仲介業者の重要事項説明義務の範囲に含まれるか。

(事案)

原告(賃借人)は、平成17年7月、賃貸人から東京都世田谷区の木造2階アパートのうち2階2−C号室19.87平方メートルを家賃6万8000円等の条件で賃借した。
その後原告は、賃借建物の階下の部屋で自然死があり死者が出ていた事実があるのに、賃貸借契約締結に際してこの事実を告知しなかった説明義務違反があるとして、賃貸人及び仲介業者に対し、礼金、敷金、鍵交換代、保険代等34万2450円、引越費用30万円及び慰謝料30万円の損害合計94万2450円の支払いを求めた。

(裁判所の判断)

不動産仲介業者は、宅地建物取引業法上、賃貸目的物の賃借人になろうとする者に対して、賃貸目的物に関する重要な事項を告知すべき義務があり、重要な事項には、賃貸目的物の物理的欠陥のほか、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥も含まれる。
しかし、本件建物の階下の部屋で半年以上前に自然死があったという事実は、社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当するものとまでは認め難い。
したがって、賃貸目的物に関する重要な事項とはいえないから、仲介業者には、告知義務はない。また、賃貸人にも、仲介業者の使用者責任としての損害賠償義務はない。

キ. 【自然死と損害賠償】(No.30)
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【参考判例】 東京地方裁判所平成19年3月9日判決 (事案)

賃貸人(原告)は、平成16年9月、賃借人(会社)が借上げ社宅として従業員Aの住居として使用するため、本件建物を賃貸した。
Aは、平成17年8月25日(木曜日)及び翌26日(金曜日)は出勤せず、検死によると、急性心筋梗塞により、同月25日に死亡したものと推定される。Aが本件建物内のトイレで死亡していることが発見されたのは、同月29日(月曜日)のことだった(以下「本件事故」)。

賃貸人(原告)は、賃借人(会社)に対し、本件事故は、賃借人の履行補助者であるAの過失に基づくものとして、賃借人に損害賠償を請求した。

(裁判所の判断)

住居内で人が重篤な病気に罹患して死亡したり、ガス中毒などの事故で死亡したりすることは、経験則上、ある程度の割合で発生しうる。そして、失火やガス器具の整備に落度があるなどの場合には、居住者に責任があるとしても、本件のように、突然に心筋梗塞が発症して死亡したり、あるいは、自宅療養中に死に至ることなどは、そこが借家であるとしても、人間の生活の本拠である以上、そのような死が発生しうることは、当然に予想される。
したがって、老衰や病気等による借家での自然死について、当然に借家人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできない。仮に、事実上本件建物の価値が減価したとしても、損害の賠償を請求することはできない。

ク. 【残置物の処分】

相続人がいれば残置物は相続人が所有権を相続しているので、相続人の承諾を得て処分する。
相続人がいない又は不明であれば、相続財産管理人の選任し、相続財産管理人との間で処分について定めることになる。

【参考判例】 残置物の処分と自力救済(No.31)
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東京地方裁判所平成15年7月3日判決

(争点)

賃借人に連絡が取れず、賃貸借契約に残置物処理の自力救済条項があり、さらに連帯保証人である義父に残置物処理の承諾をもらっていた場合に、賃貸人側によってなされた残置物処理は適法か。

(事案)

マンションの1室を賃借していた原告が、同室内に存置していた家財等の動産類を搬出・廃棄されたとし、賃貸人及び管理会社に対して損害賠償を求めた。
賃貸人側は、家財等の搬出・廃棄は、原告が賃料を支払わず、所在不明になったため、同室の原状回復のためにやむを得ずに行ったものであるうえ、そのような原状回復には原告が異議を申し立てない旨の特約(自力救済特約)もあり、また、原告の連帯保証人となった義父の承諾もあるから、損害賠償責任はない、と主張した。

※ 自力救済特約 : 「本件貸室を1か月以上不在にする場合は、必ず管理業者に通知する。その通知がなく、不在期間が1か月以上に及ぶ場合は、本件賃貸借契約は当然に解除され、第三者の立会いのもとに、随意に本件貸室内の遺留品を任意の場所に保管し、又は、任意売却のうえ原告の賃貸人に対する債務の弁済に充当しても、原告は異議を申し立てない」

(裁判所の判断)

自力救済は、法の禁止するところで、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存在する場合において、その必要の限度を超えない範囲内でのみ、例外的に許容されるにすぎない(最判昭和40年12月7日)。
本件賃貸借契約には、本件自力救済特約が存在するが、その特約の故に、上記した場合でないのに、自力救済が許されると解すべき理由はない。

本件では、原告(賃借人)は賃料を滞納し、被告管理会社は、原告とは全く連絡が取れなくなり、原告の養父である連帯保証人のBに問い合わせたり、原告を紹介された不動産業者から原告の香港及び北京の電話番号を教えて貰い、原告に電話をかけたりしたが、原告の所在をつきとめることができなかった。
しかし、その事情を考慮に入れても、司法的手続によって権利を維持・回復することが不可能又は著しく困難であると認められるような緊急やむを得ない特別の事情があったとは認められない。
司法的手続による場合に費用と時間とがかかることは否定することができないが、それは、我が国が法治国家である以上、司法的手続を利用する者がとりあえず甘受しなければならない制度的な制約である。
原告の義父で、連帯保証人であった者の承諾があっても、本件処分行為の対象となった動産類の所有者ではない者の承諾で本件処分行為の違法性が阻却されることはない。
したがって、被告らは、原告に対し、本件処分行為に係る損害賠償責任を免れない。

※ 賃借人たる高齢者が亡くなった場合、賃貸借契約の終了、滞納賃料の請求、明け渡し、残置物処分は、相続人がいれば相続人と協議等しなければならず、相続人がいないか又はいるかどうか不明でも、相続財産管理人選任手続をすることになる。

したがって、特に相続人がいないか又はいるかどうか不明の賃借人たる高齢者が亡くなった場合、死亡後の処理は法的に非常に困難となる。賃貸借契約の際の相続人確認、戸籍謄本徴収が重要となる。

ケ. 【物件汚損と原状回復】

居室内で高齢者が亡くなり、賃貸物件が汚損していた場合、そのまま放置していては物件を使用できなくなるという緊急性が高いので、賃貸借契約が相続人との間で継続していたとしても、又は相続人がいるかいないか不明でも、自力救済として清掃することは認められると考えられる。残置物処分とは、緊急性に差異がある。

清掃のための適切な費用は、相続人に請求したり、又は相続財産管理人との間で賃借人の財産からの支払いを請求することになる。
ただし、自然死で全く賃借人に過失がない場合に、亡くなったことによる汚損の原状回復費用を賃借人に負担させられるかは問題となり得る。
そこで、賃貸借契約等に賃借人(相続人)の義務として明記するか、それが困難であれば、そのような費用をカバーする保険に入ること等を考えるべき。

清掃に際して、残置物を他の場所で保管することは、清掃に伴う必要やむを得ないことだから認められる。但し、相続人等の承諾なしに廃棄等の「処分」をしてしまうことは、上記のとおり、自力救済で許されるとはいえない。

コ. 【死後事務委任契約】

第三者に自分の死後の事務を委任する契約が行われることがあり(死後事務委任契約)、形式に要件はないものの、内容の正確性等を担保するため、公正証書で契約される場合もある。

(死後事務の内容)
  • 医療費の支払いに関する事務
  • 家賃・地代・管理費などの支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務
  • 葬式に関する事務
  • 賃借建物明渡しに関する事務
  • 行政官庁等への諸届け事務
  • 各事務に対する費用の支払い

  • (松戸公証役場のHPより)。

委任契約は委任者の死亡により終了する(民法653条)。しかし、これと異なる契約をすることは有効なので(最高裁平成4年9月22日判決)、死後事務委任契約が委任者たる高齢者の死亡で終了することはない。

高齢者たる賃借人に、このような死後事務委任契約を締結してもらっておけば、家賃などの支払いの実行は期待できる。

<死後事務委任契約によって、死亡した場合に賃貸借契約を解除することを委任できるか>

賃借人たる高齢者本人であっても、死亡した場合に賃貸借契約が終了するという賃貸借契約を締結することは、高齢者居住安定確保法による例外を除いて認められない(同法52条、借地借家法30条)。したがって、それと実質的に同様のことを死後事務委任契約で委任することはできないと考えられる。
したがって、死後事務委任契約の受任者といえども、賃貸人と賃貸借契約を合意解除することはできない。 解除できない場合、受任者が明け渡し事務を行うこともできない。

しかし、死後賃料滞納が長期間にわたった場合、賃貸人としては賃貸借契約を無催告解除できる場合がある。そのため、「賃貸人からの解除通知を受け取る権限」を死後事務委任契約で与えることができれば、賃貸人としては、相続人全員を探す等の手間が省けるので非常に有用である。

このような解除通知を受領する権限(相続人の受動代理)を、死後事務委任契約で与えられるか、必ずしも明らかではない。
検討すると、上記借地借家法等との関係はない場面だから、その権限を与える死後事務委任契約も有効と考える。ただし、解除通知を受領する行為も法律事務といえるので、弁護士でない者に、報酬を約して、法律事務をさせることは、非弁行為として弁護士法違反となり得る。

そこで、解除通知を受ける権限を与える場合は、死後事務委任契約で行うのではなく、無報酬の連帯保証人、身元引受人、緊急連絡先らと賃借人との間で委任契約をしておくべきと考えられる。

なお、受任者は受任に伴う義務(善管注意義務 民法644条)として解除通知を受領したら、相続人にそのことを報告しなければならないと考えられる。

<高齢者に、自分が死んだら賃貸借契約を解除する、と遺言書に書いてもらったらどうか>

そのような遺言内容は法的な効力を生じない。
遺言内容で法的に有効な範囲は、遺言者が単独で判断して効力を生じさせるのが妥当なもので、例えば、相続分の指定や遺産分割方法の指定、遺言執行者の指定等である(法定遺言事項)。賃貸借契約解除は、賃貸人との合意が必要で、遺言者が単独でできるものではないから、遺言に記載されても法的効力を生じない。

サ. 【保険】

孤独死等が発生した場合に生じる現状回復費用や、空き室リスクによる損害を一定程度カバーする保険が、近時、損害保険会社等から販売されている。
特に身寄りのない高齢者を入居者とする場合、この保険への加入も検討されることになるだろう。

(2)賃貸借契約締結時における留意点
ア. 【契約内容・確認事項】(No.32)
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高齢者との賃貸借契約締結にあたっては、次の点を確認したり、賃貸借契約の条項に入れておくことを検討すべきである。

  • 緊急連絡先、緊急連絡先と賃借人の関係の確認
  • 相続人の確認(戸籍謄本の提出)
  • 連帯保証人を付け、賃料滞納があった場合は、連帯保証人が賃貸借契約を解除できるとする条項
  • 身元引受人を付け、身元引受人は、賃貸借契約解除の際、高齢者が希望すれば高齢者を引き取る義務を負うとする身元引受契約の締結
  • 賃貸借契約に記載欄を作成し、又は 別途の合意書において、賃貸人が請求した場合には、合理的な理由がある限り、賃借人について速やかに後見人選任の申立を行うことを、4親等内の親族等に義務づける別途の契約締結。
  • 明渡し後後の残置物の所有権放棄条項
  • 3日以上居宅を離れる場合は、事前に賃貸人に連絡する条項。
  • 3日以上連絡がとれない場合に安否確認のため立ち入ることができる条項
  • 敷金を通常より増額する検討
  • 亡くなった場合で汚損が生じた場合の原状回復費用について、範囲を明確にしたうえでの特約条項
  • 相続財産管理人に関する費用が生じた場合、その費用を賃借人側が負担する条項
  • 通常の生活が困難と賃貸人が判断した場合は、市区町村の福祉課等に相談することに異議がない条項
  • 賃借人がなくなった後、賃貸人から解除通知を受領する権限を、緊急連絡先、連帯保証人、身元引受人などに与える契約を、賃借人とこれらの者にしてもらうこと。
イ. 【定期借家契約の利用】

賃借人たる高齢者が亡くなった場合、相続人がいなければもちろん、相続人がいたとしても、遺産分割協議ができていなければその全員に賃貸借契約解除通知を出さなければならなかったり、相続放棄が生じるなどするので、賃貸借契約の解除が、法的には賃貸人にとって相当の負担となると考えられる。
そこで、短期の定期借家契約(定期建物賃貸借契約)を締結し、期間が満了すれば再度契約することを繰り返す対策も考えられる。ただし、賃借人となろうとする者からすれば好ましい契約ではないので、そのような契約締結を期待できるかという問題はある。

※ 定期建物賃貸借契約は、書面で契約しなければならず、賃貸借契約更新はない。契約の前にあらかじめ期間満了で賃貸借契約が終了することを賃借人となろうとする者に書面を交付して説明しなければならない。賃貸借期間の最低限の定めはなく、賃貸借期間が1年以上の場合は、満了1年前から6ヶ月前までの間に期間満了で賃貸借契約が終了することを賃借人に通知しなければならない(借地借家法38条)。

ウ. 【終身建物賃貸借契約】

賃借人たる高齢者が亡くなったときに、当然に賃貸借契約が終了する終身建物賃貸借契約を例外的に締結できる場合が、高齢者の居住の安定確保に関する法律(以下「法」)で定められている。
そこで、高齢者と賃貸借契約を締結する際は、この制度を利用することも考えられる。

法52条によって、六十歳以上の者で同居する者がないもの等と、賃借人の終身にわたって住宅を賃貸する事業を行おうとする者は、都道府県知事の認可を受けた場合に限り、書面で契約をすることで、賃借人が死亡した時に賃貸借契約が終了する旨定めることができる。
ただし、認可の基準として、段差のない床、浴室等の手すり、介助用の車椅子で移動できる幅の廊下等、高齢者の身体機能低下を補うために国土交通省令で定める基準に適合するものでなければならない等の制限がある(法54条)。

※ 仙台市役所にTELで問い合わせたところ(指定都市では指定都市が許可権限者)、個人でも法人でも認可事業者になることは禁止されておらず、相当昔に1件だけ申請があったものの、その後申請はなく、仙台市の認可を受けて終身建物賃貸借契約を締結している認可事業者は現在いない。バリアフリー基準が厳しいことが要因の一つかもしれないとのことであった。

エ. 【契約締結と判断能力】

認知症等の精神上の障害によって判断能力を欠いていることによって家庭裁判所の審判で後見人が付されている者(成年被後見人)が契約等をした場合は、後見人はその契約等を取り消すことができる(民法9条)。なお、必ず取り消されるわけではない。

(保佐人、補助人)

同様の制度として、他に保佐人、補助人の制度がある。しかし判断能力の劣っているレベルが被後見人ほどではないため(劣っている順に被後見人>被保佐人>被補助人)、3年を超えない期間の建物賃貸借契約は本人だけの判断ででき、取り消し等の対象にならない(民法13条1項9号、17条1項)。

(任意後見制度)

本人に判断能力がある時点で、将来判断能力が劣ったときに備えて後見人を公正証書による契約で選任しておく任意後見制度もある(任意後見契約に関する法律)。
しかし、任意後見人は、家庭裁判所の審判で選任される後見人と異なり、本人のした契約を取り消す権限はない。

したがって、賃貸借契約やその保証契約を高齢者がする場合、その者が成年被後見人だった場合には、後見人から賃貸借契約等を取り消されるリスクがある。

<後見人が付されているかの確認方法>

成年被後見人、被保佐人、被補助者かどうか、任意後見契約内容の情報は東京法務局に登記されており(後見登記法)、登記された内容を証明する登記事項証明書を後見人等は請求でき、本人であれば「登記されていないことの証明書」を法務局に申請できる。
したがって、成年被後見人かどうか等は、本人に「登記されていないことの証明書」の提出を求めることで確認できる。

(3)賃貸借契約中の認知症進行
ア、【家賃滞納等による解除、明け渡し】

家賃滞納によって賃貸借契約を解除して明け渡しを求める場合、実際には賃借人の認知症がある程度進行していたとしても、周りからみて判断能力が明らかにないと思われる状態でなければ、通常どおり解除し、最終的には訴訟、強制執行を行えばよい。

しかし、近隣に迷惑行為をかけ続けたり、徘徊したりするようになっている場合で明らかに判断能力が不十分と思われる場合は、法的に有効な解除や強制執行が行えない場合がある。また、そのような者に強制執行で明け渡しを強行することが社会的非難を受ける場面があり得る。特に一人暮らしで、家族、保証人、身元引受人等の適切な協力が得られなかったりする場合が問題となる。

<対応方法>
  1. (後見人選任)
    法的には、認知症等で判断能力(意思能力)がない者は、解除通知を有効に受け取ることもできず(改正民法3条の2、98条の2)、訴訟の被告にもなれず(民事訴訟法31条)、強制執行の債務者にもなれない(民執法20条、民訴法34条)。

    このような場合、家庭裁判所に後見人を選任してもらい、後見人に対して、解除通知や訴訟提起、強制執行の手続を行うのが法的な手続となる。
    ただし、賃貸人(債権者)は、後見人選任申立権者ではないため、申立権者である4親等内の親族等の協力を得ることが必要となる。

    賃貸借契約に記載欄を作成したり、別途の合意書において、4親等内の親族等と、賃貸人が請求し合理的な理由がある場合は、後見人選任申立を義務づける契約をしておく対策が考えられる。

    ※ 東京家庭裁判所の場合、申立から後見審判まで1〜2ヶ月を要することが多い。

    【参考判例】(後見審判申立と賃貸借契約解除条項)

    大阪地方裁判所平成24年11月12日判決
    建物賃貸借契約の契約条項のうち、後見開始又は保佐開始の審判や申立てがあったときに解除を認める条項は、消費者契約法10条に該当するとして、効力が否定された。
  2. (特別代理人)
    訴訟を提起し、裁判所に対し、被告となる認知症の者の特別代理人の選任を申し立てる方法もある(民事訴訟法35条)。同条は、意思能力を欠く常況にあってまだ成年後見開始決定を受けていない者にも準用される。
    ただし、訴訟遅滞のため損害を受けるおそれがあることを示す必要がある。
イ. 【老人福祉法による保護】
(特別養護老人ホームへの入所措置)

市区町村は、必要に応じて、65歳以上の者で、身体上又は精神上著しい障害があるため常時の介護が必要で、居宅でこれを受けることが困難な等の場合は、当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所等させる措置を採らなければならない(老人福祉法11条2項)。

この費用は、市町村が負担する(老人福祉法21条2号3号)。
ただし、市区町村は、当該措置に係る者又はその民法上の扶養義務者から、その支弁した費用の全部又は一部を徴収できる(老人福祉法28条)。

老人福祉法11条に基づく措置は市町村の義務であり、申立権者の範囲等の定めはない。したがって、賃貸人も、市区町村に対し、老人福祉法11条に基づく措置を求めることができると考えられる。

ウ. 【精神保健福祉法による入院措置】

都道府県知事は、診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を精神科病院等に入院させることができる(精神保健福祉法27条、29条)。
ここにいう精神障害者の「精神疾患」(精神保健福祉法5条)には、認知症性疾患も含まれる。

エ. 【民生委員】

各市区町村に、都道府県知事の推薦によつて厚生労働大臣から委嘱された民生委員がいる。高齢者についての困りごとや福祉等について地域住民が相談でき、必要な対応等をアドバイスしてくれる(民生委員法)。
賃借人である高齢者についてどのような老人福祉の手当があり得るか等、賃貸人が相談することもできる。

以 上

≪ 1.高齢者の生活環境

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