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一票の較差判決について

2013年1月25日 弁護士 中島 成

目次

1、直近の二つの「違憲状態」判決

平成24年12月16日、衆議院議員選挙が行われ、この選挙についてもそれまでの選挙と同様、多数の一票の較差訴訟が提起されています。

一票の較差訴訟は、形式的には一人一票の選挙権が保障されているけれども、有権者と選出される議員の数の割合を選挙区同士で比較すると差が生じているため、投票価値に実質的な差が生じていることを理由に、選挙を無効とすべきという訴訟です。

この点について判断した直近の最高裁判例として、最高裁平成23年(2011年)3月23日大法廷判決(以下「平成23年判決」といいます)と、最高裁平成24年(2012年)10月17日大法廷判決(以下「平成24年判決」といいます)があります。

平成23年判決は、平成21年(2009年)8月の衆議院小選挙区選挙について、投票価値の選挙区間較差が2.3倍であった事例についての判断で、較差を生じさせた公職選挙法等の各規定に基づく選挙区割りが違憲状態にあると判断しました(裁判官15人中12人の多数意見)。平成6年(1994年)衆議院の小選挙区制導入以来、小選挙区の投票価値について最高裁が違憲状態であると判断したのは初めてです。
同判決にいう「違憲状態」とは、投票価値の選挙区間較差が、法の下の平等(憲法14条1項)等が要請する投票価値の平等に反する状態であるという意味です。同判決で最高裁は、いわゆる1人別枠方式(議席数300議席のうち、まず47議席を全都道府県に1議席ずつ割り当てる方式)についても、一票の価値較差を生む原因となっているので廃止すべきとの判断を示しました。

違憲状態だったのなら選挙は違法で無効と考えるのが素直に思えます。しかし、平成23年判決は、選挙を無効とせず、また主文で違法と宣言することもしませんでした。同判決は、平成21年(2009年)選挙は違法状態でなされたけれども、平成19年(2007年)6月の最高裁大法廷判決が、平成17年(2005年)衆議院選挙について較差2.171倍でも合憲と判断しているので、平成21年(2009年)選挙までに是正がされていなくても、合理的期間内の是正がされなかったということはできないとしたからです。

他方、平成24年判決は、平成22年(2010年)7月に行われた参議院の選挙区選挙について、投票価値の選挙区間較差が5.00倍であった事例について、違憲状態にあると判断し、都道府県単位の選挙区による定数設定を改めるべきとしました。もっとも、この判決も、参議院で抜本改革に向けた検討が継続されており、平成22年の参議院選挙までに改正しなくても、合理的期間内の是正がされなかったということはできないとして、選挙を無効とせず、また判決主文で違法であると宣言することもしませんでした。平成23年判決と同じです。

2、「合憲」「違憲状態」「違憲違法」「違憲無効」の4種の判決

一票の較差訴訟における判決内容の種類は、(1)「合憲」、(2)「違憲状態」、(3)「違憲違法」、(4)「違憲無効」の4種に分類できます。
なぜこのような種類があるのでしょう。

裁判所は、投票価値の平等を要請する憲法に違反するか判断するにあたっては、較差の程度と、改正までの合理的期間を経過したかの二つの要素を勘案します。
較差の程度が違憲状態でも、まだ較差是正のため合理的に必要な期間を経過していない内に選挙が行われたなら、やむを得ない面があるので、選挙は違憲状態でおこなわれたものの、選挙自体は違法ではないというわけです。これが(2)「違憲状態」の判決で、平成23年判決、平成24年判決は、この(2)に分類されるものです。

他方、較差の程度が違憲で、かつ、選挙がその較差是正までに必要な合理的期間を超えて行われた場合は、端的に「違憲」判決になります。
この違憲判決は、さらに二種類に分かれます。それが(3)「違憲違法」と(4)「違憲無効」です。
(3)は、違憲だからといって選挙の効力も無効にしてしまうと、無効選挙後判決後の再選挙までに国会で可決された法律や予算、それに基づく執行、批准された条約等の効力否定につながるなど著しい損害が生じるので、選挙の効力は否定せず、判決主文で違法であることだけ宣言しておく、というものです。事情判決といわれ、行政処分取消訴訟に関して行政事件訴訟法31条が規定している判決の方法です。
最後の(4)「違憲無効」は、その名のとおり、選挙の効力も無効とするものです。この場合は選挙をやり直すことになります。

最高裁は、衆議院選挙について(3)「違憲違法判決」を出したことはあるものの、衆議院と参議院両方とも(4)の「違憲無効」判決を出したことはまだ一度もありません。

3、平成24年衆議院選挙について裁判所はどう判断するか

それでは、平成24年(2012年)12月16日の衆議院総選挙について、裁判所はどう判断するでしょうか。

今回の選挙は、衆院解散日である平成24年(2012年)11月16日に、上記1人別枠方式の廃止と較差是正のための0増5減を盛り込んだ選挙制度改革法が成立し、これを前提として行われました。ただし、区割りを見直す時間はなく、選挙区間の最大較差が2.43倍の状態で選挙が行われましたから、衆議院小選挙区についての平成23年判決からみて、少なくとも(2)「違憲状態」判決が出ることは間違いないでしょう。

しかし、平成23年判決も(2)「違憲状態」判決に留まり、(3)「違憲違法」とまでも言っていません。上記選挙制度改革法を成立させていること、選挙無効としたときの混乱を考慮すると、今回の選挙についても、最終的には、「違憲無効」判決とはならず、(3)の「違憲違法」判決となると考えられます。

4、最高裁のディレンマ

当該選挙における選挙区間較差について、(2)「違憲状態」と言おうが、(3)「違憲違法」と言おうが、結局のところ選挙は無効になりませんから、司法(最高裁)から見れば、選挙毎に国会に改正を促すことをくり返すだけというディレンマ状態にあるといえます。そしてそれはくり返されてきたディレンマです。

今回の衆議院選挙については(3)の違憲違法判決にとどまると考えられるものの、その後、また同じような較差状態がくり返されれば、最高裁は、憲法の番人として、やむを得ず(4)の違憲無効(選挙無効)という判決を打ち出す可能性があります。

以上

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