管理会社と賃借人居住安定確保法(案) 〜これからの不動産賃貸管理〜
第1 法案の内容
1、構成
- 第1章 総則(1〜2条)
- 第2章 家賃債務保証業(3〜32条)
- 第1節 登録(3〜11条)
- 第2節 業務(12〜24条)
- 第3節 監督(25〜32条)
- 第3章 家賃等弁済情報提供事業(33〜60条)
- 第1節 登録(33〜41条)
- 第2節 業務(42〜49条)
- 第3節 監督(50〜56条)
- 第4節 家賃等弁済情報の取扱い(57〜60条)
- 第4章 家賃関連債権の取立てに関する不当な行為の規制(61条)
- 第5章 雑則(62条〜70条)
- 第6章 罰則(71〜81条)
2、概略
- (1)成立見込み、施行日
- ・法案は、平成22年3月2日、内閣から提出され、現在継続審議中。特に反対政党もないことから成立が見込まれている。
- ・公布の日から1年を超えない範囲内に施行(附則1条)。
- (2)内容
- 法案は、賃借人の居住の安定の確保を図るという目的で(法案1条・以下、法案の条文)そのため、家賃債務保証業者(以下「保証業者」)及び家賃等弁済情報提供事業者の登録制度、規制を行うとともに(第2章、第3章)、家賃等に係る債権の取立に関する不当な行為を規制し(第4章=61条)、広範な罰則規定を設けている(第6章)。
※ 法案は、不動産賃貸管理業の登録制度をもうけたものではない。
※ 不動産賃貸管理業の登録制度については、国土交通省から「賃貸住宅管理業者登録制度」が告示されており、平成23年度中に施行される予定。
この登録制度は任意登録制度で、登録した業者が業務上守るべきルールが「賃貸住宅管理業務処理準則」として定められており、その16条に、賃貸住宅管理業者は、賃借人居住安定確保法61条に違反する行為を行ってはならない、と定められている。
ア、定義(2条、43条、61条)
- ・「賃貸住宅」(2条1項)。
- 賃貸の用に供する住宅(人の居住の用に供する建築物又は建築物の部分)
※ 住宅でなければ、法の規制対象ではない。 - ・「家賃債務保証業」(2条3項)
- 賃借人の委託を受けて、当該賃借人の家賃の支払いにかかる債務(家賃債務)を保証することを業として行うこと。
※ 保証料の支払いを受ける業態への規制だから、賃借人の委託を受けて、が定義に入っている。ただし、実際に保証料をもらうことは要件ではない。
※ 業として、とは、反復継続して行う意思をもってすること。 - ・「保証業者」(2条4項)
- 登録を受けて家賃債務保証業を営む者。
※ 法律施行時に現に家賃債務保証業を営む者は、法律施行の日から6ヶ月間や登録を受けないでも家賃債務保証業を営むことができる。 - ・「保証委託契約」(2条5項)
- 保証業者が、賃借人と締結する契約で、保証業者が賃借人の家賃債務を保証することを賃借人が委託するもの。
- ・「保証契約」(2条6項)
- 家賃債務保証業者が賃借人の委託を受けて賃貸人と締結する契約で、保証業者が賃借人の家賃を保証することを内容とするもの。
- ・「家賃等弁済情報」(2条9項)
- 家賃債務又は家賃債務の保証に係る債務の過去の弁済に関する情報。
- ・「家賃等弁済情報提供事業」(2条11項)
- 家賃等弁済情報を収集し、賃貸借契約又は保証契約(家賃関連契約)を締結しようとする者に提供する事業。
- ・「家賃等弁済情報提供事業者」(2条12項)
- 登録を受けて、家賃等弁済情報提供事業を営む者。
- ・「情報提供業者」(43条1項)
- 家賃等弁済情報提供事業者が、家賃等弁済情報収集契約を締結した相手方。
- ・「情報利用業者」(43条1項)
- 家賃等弁済情報提供事業者が、家賃等弁済情報提供契約を締結した相手方。
- ・「家賃関連債権」(61条柱書き)
- 家賃債務に係る債権や保証により有することとなる求償権等、又は、これらに係る保証債務に係る債権。
イ、不動産賃貸管理業と保証業者、家賃等弁済情報提供事業者との関係に関する条項
- ・証明書の携帯(13条)。
- ・暴力団員等の使用禁止(14条)。
- ・勧誘等のために虚偽を告げたり、重要な事項を告げないことの禁止(15条)。
- ・(締結前書面交付義務)
- 保証委託契約を締結するまでに、保証期間・保証委託料・事前求償の定め等を記載した書面の交付義務(18条)。
- ・(締結時書面交付義務)
- 保証委託契約を締結した場合に、遅滞なく、上記18条と同様の書面の交付義務(19条)。
- ・(家賃等弁済情報の収集・提供の相手方の制限)
- 家賃等弁済情報提供事業者は、情報提供業者以外の者から家賃等弁済情報を収集し、又は、情報利用業者以外の者に対して、家賃等弁済情報を提供してはならない(43条1項)。
※ 不動産賃貸管理業者自身は、家賃等弁済情報提供事業者と家賃等弁済情報の提供契約、利用契約を締結していない限り、家賃等弁済情報提供事業者に対して家賃等弁済情報の提供をしたり、その提供を受けて利用することはできない。
※ 情報提供業者及び情報利用業者になる者は、家賃等弁済情報提供事業者と提供・利用契約を締結した者であり(43条1項の定義)、法文上、保証業者に限定されているわけではない。
・家賃等弁済情報提供事業者は、情報提供業者又は情報利用業者に家賃等弁済情報の扱いについて法令違反の重大な事実があることを知ったときは、情報提供業者又は情報利用業者が再発防止に必要な措置を取るまでは、当該業者から家賃等弁済情報を収集したり、提供したりしてはならない(43条2項)。
- ・(開示請求による情報の提供禁止等)
- 家賃等弁済情報提供事業者は、本人からの開示請求に応じなければならず(45条1項)、訂正要求は調査して必要があると判断したときは訂正しなければならず(45条2項)、訂正や訂正拒否を本人に通知しなければならず(45条3項)、同通知がなされるまで訂正要求のあった者に対する情報を情報利用業者に提供してはならない(45条5項)。
- ・(提供前同意等)
- 情報提供業者は、家賃等弁済情報提供事業者に家賃等弁済情報を提供する場合は、あらかじめ、当該提供をすること及び家賃等弁済情報提供事業者がその他の保証業者(情報利用業者)に提供することについて、当該家賃等弁済情報に係る本人から、同意を得ておかなければならない(57条1項)。
また、情報提供業者は、この同意や提供した家賃等弁済情報に関する記録を作成し保存する義務がある(57条3項)。 - ・(利用のための提供依頼前同意等)
- 情報利用業者は、家賃等弁済情報提供事業者に家賃等弁済情報の提供依頼をする場合は、あらかじめ、当該依頼をすること、当該情報を過去の家賃債務の弁済の状況に関する調査目的に利用すること等について、当該家賃等弁済情報に係る本人から、同意を得ておかなければならず(58条1項)、この同意に先立って、本人に家賃等弁済情報提供事業者に家賃等弁済情報の開示請求ができることを告知しなければならない(同項)。
また、情報利用業者は、この同意や提供を受けた家賃等弁済情報に関する記録を作成し保存しなければならない。 - ・(目的外利用、第三者提供の禁止)
- 情報利用業者(役員、使用人その他の従業者、又はこれらの者であった者)は、家賃等弁済情報提供事業者から提供を受けた家賃等弁済情報を、本人の過去の債務の弁済状況に関する調査以外の目的に利用してはならず又は、第三者に提供してはならない(60条)。
ウ、家賃関連債権の不当取立てに対する規制(61条)。
保証業者、賃貸事業者(家主)、若しくはこれらの者から家賃関連債権(賃料債権、家賃債務の保証から発生する求償権)を譲り受けた者、これらの者から家賃関連債権の取立を受託した者は、家賃関連債権の取立をするに当たって、いかなる方法をもってするかを問わず人を威迫し、又は、ロックアウト(61条1号)、持ち出す際に同意を得た場合を除く物品持ち出し(61条2号)、夜間早朝の訪問・電話を賃借人や保証人から拒まれたにもかかわらずその時間帯に訪問したり電話をかけること(61条3号)これら1号から3号の言動をすることを賃借人や保証人に告げること(61条4号)、その他の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
※ 61条の規制対象には、賃貸管理業者も、家賃関連債権の取立を受託した者として、含まれると解される。ただし、非弁行為との関係は問題となり得る。
↓
平成23年度中に施行予定の国交省による「賃貸住宅管理業者登録制度」では、賃貸住宅管理業者は、61条に違反する行為をしてはならないことが明記されている(賃貸住宅管理業務処理準則16条)。
エ、主な罰則
- ・取立規制(61条)に違反した者は、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はその両方(73条)。
- ・暴力団等を業務に従事させたり(14条)、保証委託契約の勧誘等に際して虚偽を告げたり(15条)、家賃等弁済情報提供事業者から提供された家賃等弁済情報を過去の債務の弁済状況に関する調査目的以外に利用したり、第三者に提供した(60条)等の場合は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、又はその両方(74条)。
- ・提供前同意(57条)、利用のための提供依頼前同意(58条)に反して、家賃等弁済情報を提供したり、家賃等弁済情報提供事業者に対して提供依頼をした者は、6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、又はその両方(75条)。
- ・18条(保証委託契約締結前交付書面)、19条(保証委託契約締結時交付書面)違反の場合、100万円以下の罰金(76条)。
- ・従業者に証明書を携帯させずに業務を行わせた場合は、50万円以下の罰金(77条)。
- ・(両罰規定)
- 法人の使用人その他の従業者等が、73条(61条違反の罰則規定)から78条までの違反行為をしたときは、法人に対しても各条の罰金(79条1項2号)。
※ なお、家賃等弁済情報提供事業者は、情報利用業者から家賃等弁済情報の提供を依頼されたときは、滞納情報だけでなく、当該本人に関する全ての家賃等弁済情報を提供しなければならない(44条)。これは弁済情報も併せて保証業者の保証委託契約締結などの判断に利用させるため。