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更新料、敷金、原状回復費用に関する判例分析 〜直近の判例から〜

4、通常損耗の原状回復費用を賃借人に負担させる特約について

最高裁判例と、同判例に基づく判断基準によって通常損耗の賃借人負担が認められた事例

通常損耗(賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少)の原状回復費用を賃借人に負担させる特約が有効か否かについては、更新料、敷引特約と異なり、最高裁判例がある。

〔6〕最高裁平成17年12月16日判決……資料F
(判示事項)
ア、通常損耗の補修費用は、原則として賃貸人が負担すべきであるものの、これと異なる特約を設けることは、契約自由の原則から認められる、とした原審の判断を肯定したうえで、
イ、通常損耗に係る減価の回収は、通常、賃料の中に含ませて支払いを受けることが行われている。したがって、賃借人に通常損耗の原状回復義務を負わせるのは、予期しない特別の負担を課すことになるから、同義務を賃借人に負担させるためには、少なくとも、賃借人が、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明示されているか、賃貸借契約書で明らかでない場合は、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。
ウ、資料F記載の賃貸借契約書等では、上記イ、の特定がなされているとはいえず、また、口頭で上記のような説明がなされたともいえない。
※ この最高裁判決に先だって、大阪高裁平成16年12月17日(本最高裁判決の原審ではない)は、通常損耗について賃借人に原状回復義務を負わせる特約は、消費者契約法10条に該当し無効であると判示していた。
  しかし、最高裁は、判示事項ア、のとおり、同特約を消費者契約法10条によって無効とせず、契約自由の原則によって特約が認められる場合があると判示したうえ、そのための要件を提示した。
ここから、最高裁が、消費者に不利な内容を含む特約といえども、消費者契約法10条によって一刀両断に契約を無効とするのではなく、契約自由の原則を前提としながら実質的に公平となるための判断基準を探る、という方向性にあることが読み取れる。
  これは、更新料支払合意や敷引特約についての最高裁の判断を予想するヒントになる。
※ この最高裁判決の基準に基づきながら、通常損耗を賃借人に負担させる特約を有効としたのが、〔9〕判決……資料Dである。
  ポイントは、通常損耗、自然損耗において負担すべき内容が特定される書き方になっている点と考えられる。上記最高裁で現れた賃貸借契約書等では、すべて賃借人が原状回復するという曖昧な文言となっており、特に通常損耗が賃借人の負担となることが、くっきり、文言自体から明白とまではいえなかった。

≪ 3、敷引特約について

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