企業法務・企業再生のためのリーガルサービスを目指します 中島成総合法律事務所

中島成総合法律事務所 ホーム不動産管理・賃貸借 ≫ 改正民法が不動産賃貸業に与える影響 〜平成29年5月26日、民法(債権法)の大改正が成立〜

改正民法が不動産賃貸業に与える影響 〜平成29年5月26日、民法(債権法)の大改正が成立〜

4、その他のルールの改正による影響

(17)遅延損害金の利率(404条)
【改正のポイント】(固定制から変動制へ変更される】(No.32)
  1. 法定利率を、まずはこれまでの年5%から年3%に変更する。
    ※ 商事法定利率は現行商法514条で年6%とされているところ、同条を削除し、改正民法の法定利率に統一する。
  2. 利息の利率は、特段の意思表示がないときは、当該利息が生じた最初の時点での法定利率による。
  3. 法定利率は、法務省令で3年ごとに変更される。
    変更の方法は、前年を除く直近過去5年間の各月における短期貸付け(各月で銀行が新たに行った貸付期間1年未満の貸付け)の平均利率の合計を60で除して計算した割合を「基準割合」とし、直近で法定利率が変更された期(以下「直近変動期」)の基準割合と当期の基準割合との差が1%以上ある場合に、1%刻みで変動させるというもの。1%未満の端数は切り捨てる。
【改正の理由】

低金利が長期間続いており、現行法定利率の年5%(商事法定利率は年6%)が高すぎる。当面これを引き下げて3%にし、以後3年ごとの変動制にする。短期的な政治的経済的影響を除くため過去60ヶ月の平均と比較する。

【影響】

家賃等の遅滞があった場合の遅延損害金が年何%になるかは賃貸借契約に定められている場合も多い。しかし定められていない場合はこの法定利率による。

今回の改正までは、会社が賃貸人又は賃借人であった場合等は年6%(商法に定められている利率)で、そうでない場合は年5%だった。それが改正後はまず3%になり利率が下がる。その後は変動する。

一定の利率を契約時に約定しておくのが債権管理上は便利。例えば、「家賃その他の本契約から生じる賃借人の債務が支払われなかった場合は、年10%の損害金を付加して支払うものとする。」等の条項を賃貸借契約に入れておく。

(18)将来発生予定の家賃債権を譲渡できるか(466条の6、467条)
【改正のポイント】(No.34)

債権譲渡のときに現に発生していない債権も譲渡できる。譲受人は、将来発生する債権を取得する。
現に発生していない債権の譲渡も、譲渡人による通知又は債務者の承諾が内容証明等でなされれば、同じ債権を譲渡された他の者に優先できる。

【改正の理由】

現行法は譲渡時に発生していない債権(将来債権)の譲渡に関する規定を置いていない。しかし判例(最高裁平成11年1月29日判決等)で認められている。今回それが明文化された。

※ 将来債権譲渡に関する最高裁平成11年1月29日判決
医師の将来8年3ヶ月間の診療報酬の一部についての譲渡契約について、6年8ヶ月目以降部分の債権譲渡の効力が争われ、最高裁はこれを有効とし、次のとおり判断した。

  • 債権譲渡契約締結時に債権発生の可能性が低かったことは、債権譲渡契約の効力を当然に左右するものではない。
  • 債権譲渡契約締結当時の譲渡人の資産状況、営業等の推移の見込み、契約内容、契約締結経緯等を総合的に考慮し、期間の長さ等の債権譲渡契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるなどの特段の事情が認められる場合は、当該債権譲渡契約は公序良俗に反するなどとして効力が否定されることがある。
【影響】

賃貸人は、資金繰り等必要があれば、将来発生する家賃債権を譲渡できる。譲渡された債権は、それが発生するとそのまま譲受人のものになる。
内容証明郵便等によって譲渡したことについて、譲渡人(賃貸人)が賃借人に通知するか、又は債務者(賃借人)が譲渡人(賃貸人)か債権の譲受人のいずれかに対して承諾通知を出すなどすれば、その後同じ家賃債権を譲り受けた他の者に優先できる(以下「通知による対抗要件具備」)。
なお、法人である賃貸人が家賃債権を譲渡する場合は、特例法で、債権譲渡ファイルへの登記でもこれらの通知と同じ効果が認められている。

※ 家賃債権が譲渡された後、不動産が譲渡され、賃貸人が不動産譲受人になった場合はどうなるか。

この場合でも不動産の所有権移転登記前に、上記通知による対抗要件具備があれば、家賃債権の譲受人が家賃を取得すると解される(最高裁平成10年3月24日判決)。
したがって、賃貸不動産を取得する場合は、将来家賃が既に他に譲渡されていないか賃借人に確認したり、債権譲渡ファイルの登記事項を確認すべき。

(19)賃貸借契約の解除ができない場合(541条、542条)
【改正のポイント】(No.35)
  1. 契約は相当期間を定めて催告をしても履行がなければ解除できるのが原則。しかし、催告期間を経過した時点で存在する債務不履行の程度が、契約及び社会通念上軽微なときは解除できない。
  2. 債務者が債務の全部の履行を拒絶するという意思を明確に表示していたときは、無催告で解除できる。
  3. 【改正の理由】
    1. 現行法の下でも、不履行が数量的にごく僅かであったり、付随的義務に違反したのみのときは、原則として解除できないと解すのが一般。この点を明文化した。
    2. 履行拒絶意思が明確なときはで催告する必要はないから。
    【影響】
    1. 賃貸借契約の解除は、信頼関係が破壊されたといえる債務不履行がなければ解除できないという考えが確立している。
      賃貸人が、家賃3か月分の滞納があったため、「1週間以内に支払え。払わなければ解除する。」と通知した場合で、賃借人が1週間以内に2・5ヶ月分だけ払った場合、賃貸借契約を解除できるか。

       その状況が信頼関係を破壊したと評価できるかがポイント。
      今回の上記改正もあるので、同様の催告→一部支払いが繰り返されたとか、それまでもしばしば家賃不払いを繰り返していたとかなどの事情がなければ、催告期間経過時点で0.5ヶ月分の未払いが残るだけでは解除は認められないと考えられる。
    2. 賃借人が「そんなことを言うならもう払わない」と言ったというだけでは足りず、家賃不払いの強固な意志がはっきりと、しかも証明できる形で示されたことが必要。
    (20)意思表示の到達(97条2項)
    【改正のポイント】(No.38)

    相手方が正当な理由なく意思表示の通知の到達を妨げたときは、通常到達すべきときに到達したものとみなされる。

    【影響】

    家賃支払いの催告や賃貸借契約解除などの通知が受領拒否される場合がある。それでも催告や解除の意思表示が到達したとされる場合が改正民法で定められた。

    <どのような場合が「正当な理由なく」到達を妨げたとといえるか>

    前提として、ある程度当該意思表示の内容が推知できることが必要と考えられる。
    全く知らない弁護士からの趣旨不明の内容証明郵便を受領拒絶したとしても、正当理由があると認められる可能性がある。しかし、賃貸人や、賃貸人代理人と表示した場合、保証会社から債務者への連絡は、内容が予想できるのが通常と考えられる。

    内容証明郵便が返送される理由の中にも「受け取り拒否」がある。賃貸人や賃貸人代理人弁護士等からの賃貸借契約解除等の内容証明郵便が受け取り拒否された場合は、これらの意思表示は送達されたと解してよい場合が多いと考えられる。

    (21)消滅時効(166条1項、151条)
    【改正のポイント】
    1. (時効期間)(166条1項)(No.30)
      債権は、権利行使できることを知ったときから5年間、又は権利行使できるときから10年間で時効消滅する。
    2. (協議による時効完成猶予)(151条)(No.31)
      当事者が権利に関する協議を行う旨、書面又は電磁的記録で合意(以下「猶予の合意」)したときは、次の3つのいずれか早いときまで消滅時効は完成しない。
      • 合意があったときから1年間、
      • 協議期間が1年未満のときはその期間、
      • 協議続行拒絶通知から6ヶ月、

    ※ 時効の完成が猶予されている間に改めて猶予の合意をすることもできる。ただし、本来の時効満了時点から通じて5年間を超えることはできない。

    【影響】
    1. これまで債権の消滅時効は、原則として「権利行使できるときから」10年間だった。

      今回の改正でもその枠組み自体は維持される。しかし、これに加えて「権利行使できることを知ったときから」5年間の消滅時効が新設される。
       したがって、大部分の債権は、この5年間の時効期間にかかると考えられる。

      これまでも賃貸借契約の賃料請求権の消滅時間は5年間だった(民法169条)。また、保証会社の賃借人に対する請求権等、会社の取引債権等の商事債権の消滅時効期間も5年間(商法522条)だった。
      今回の改正で消滅時効期間は上記新規定に統一され、民法169条も商法522条も削除される。
      このように賃料債権も、保証会社の賃借人に対する債権もこれまでも5年間だったので、実質的な影響はない。
    2. 新設規定であり、権利の存否、内容等について協議することを書面化し、更新することで、最長5年間、消滅時効の完成を阻止できることになる。
    (22)約款に関する民法改正は不動産賃貸借契約も対象とするか(548条の2〜4)
    【改正のポイント】(No.36)
    1. ある特定の者(A)が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的なことが契約当事者双方に合理的なものを「定型取引」という。定型取引の内容とするためにAが準備した契約条項の総体を「定型約款」という(548条の2)。 定型約款の条項中、社会通念に照らして信義に反し相手方の利益を一方的に害する条項は、合意がなかったとみなされる(548条の2)。
    2. Aは、変更が相手方の一般的な利益に合う場合、又は、契約目的に反せず、必要性、相当性等に照らし合理的な場合に限り、相手方の同意なく定型約款を変更できる(548条の4)。
    【改正の理由】

    定型約款が効力を生じる根拠、多数の相手方が不合理な不利益を被ることなく業者側が一方的に定型約款を変更できる場合等を明確にする必要があるため。

    【影響】

    不動産賃貸借契約は、たとえ賃貸人や管理業者が予め契約条項を用意している場合でも、不特定多数の者を相手方とする取引ではなく相手方の個性に着目した取引だから、「定型取引」ではない。
    したがって、準備された賃貸借契約や保証契約であっても、「定型約款」ではなく、定型約款についての改正民法の適用はない。同様に労働(雇用)契約にも適用がない。

5、施行前の契約と改正民法の適用関係(No.41) ≫

≪ 3、賃貸借ルールの改正による影響

目次へ戻る

お問合わせ

企業法務・倒産法・会社の民事再生 中央区銀座 中島成総合法律事務所