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改正民法が不動産賃貸業に与える影響
〜平成29年5月26日、民法(債権法)の大改正が成立〜
平成29年12月 弁護士 中島 成
これは、実際に中島が平成29年9月から12月にかけて上場会社が主催するセミナーにおいて全国主要都市等7カ所で講演した際に使用したレジメを加筆補正のうえ公開するものです。このレジメの全部又は一部を、セミナー、勉強会、講演、講義等で使用される場合、その他の目的で頒布・転載される場合は、あらかじめ当事務所の承諾を得るようお願いします。
目次
- 1、民法改正の経緯等
- 2、保証ルールの改正による影響
- (1)賃貸借契約の個人保証も極度額の設定が必要(465条の2)
個人が保証する元本が確定する場合(465条の4) - (2)保証会社が保証する場合と極度額(465条の5)
- (3)賃借人が保証人に資力等を説明しなかったら保証が取り消される場合がある(465条の10)
- (4)賃貸人が保証人から家賃の支払い状況を尋ねられた場合の情報提供義務(458条の2)
- (5)期限の利益喪失についての情報を個人保証人に提供する義務(458条の3)
- (6)事業のための資金借り入れの個人保証と公正証書ルール(465条の6、465条の8、465条の9)
- 3、賃貸借ルールの改正による影響
- (7)敷金とは何か。その返還時期は(622条の2)
- (8)賃貸不動産が譲渡された場合、賃貸人は誰になるか。
敷金・必要費、有益費の返還義務はどうなるか(605条の2) - (9)通常損耗なら賃借人に原状回復義務はないか(621条)
- (10)明け渡しの際、賃借人は自分が取り付けた物を撤去しなければならないか(622条、599条)
- (11)賃貸人の修繕義務(606条)、賃借人の修繕権(607条の2)
- (12)一部使用できなくなったら家賃は当然に減額されるか。
一部使用できなくなったのが賃借人の責任でも賃借人は賃貸借契約を解除できるか。 (611条) - (13)サブリース物件で転借人がもとの賃貸人に直接家賃支払義務を負うか。もとの賃貸借契約が解除されたら、転借人は退去しなければならないか(613条)
- (14)賃貸物件の使用が妨害されたとき、賃借人は妨害をやめるよう請求する権利があるか(605条の4)
- (15)用法違反による損害賠償請求権の消滅時効(622条、600条)
- (16)賃貸借契約の存続期間
- 4、その他のルールの改正による影響
- (17)遅延損害金の利率(404条)
- (18)将来発生予定の家賃債権を譲渡できるか(466条の6、467条)
- (19)賃貸借契約の解除ができない場合(541条、542条)
- (20)意思表示の到達(97条2項)
- (21)消滅時効(166条1項、151条)
- (22)約款に関する民法改正は不動産賃貸借契約も対象とするか(548条の2〜4)
- 5、改正民法施行前の契約と改正民法の適用関係
※ 本レジメの条文は、改正民法の条文
※ 本レジメ中、No.で示された数字は、「改正民法と不動産賃貸業」(中島成著・日本実業出版社)の内容の項目番号
1、民法改正の経緯等(No.1)
- 明治29年(1896年)
- 民法制定
- 平成16年
- 現代語化、及び保証に関する一部改正
- 平成21年
- 法務大臣による改正検討指示
- 同年11月
- 法制審議会民法(債権法)部会設置
- 平成25年3月
- 中間試案公表
- 同年4月〜6月
- パブリックコメント
- 平成26年8月26日
- 法制審議会民法部会が改正要綱原案を承認
- 平成27年
- 通常国会に民法改正案提出→継続審議となる。
- 平成29年5月26日
- 改正民法成立
- 同年6月2日
- 公布
- 2020年4月1日
- 施行(2017年12月15日閣議決定)
- 今回の改正は、民法の中での債権法(=契約に関する法)分野が改正の対象なので、債権法改正ともいわれる。この債権法分野は民法制定以来大きな改正がこれまで行われていなかった。
「債権」とは、特定の人や企業に対して請求できる権利(請求権)のこと。 債権(請求権)の発生原因の代表が契約であるため、今回の民法改正は、「契約に関する法の改正」ともいわれる。 - 121年ぶりの大改正
- 改正の理由は、蓄積してきた判例や解釈を整理してできるだけ民法自体に取り入れ、民法をアップデートすること。できるだけ分かりやすい言葉使いにすることも目指された。
※ 改正の背景として、現行民法は、ローマ法の影響を受けるドイツ、フランスの大陸法を参考にしているところ、現在、契約を重視する英米法(コモンロー)が国際的な取引の主流になっており、これに民法を合わせるという点がある。
(日本は、契約を重視する国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約)を2008年に批准し、同条約が2009年8月1日発効した)。
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改正民法は、契約当事者の意思内容を重視し、当該契約(約束)の内容がどのようなものと解釈されるべきか、その内容に応じた履行がなされたかが、債務不履行責任を負うか、契約を解除できるか等の判断において重視されることを明文で明らかにした。これは改正民法全体に流れる特徴。
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例:
- 契約自由の原則を初めて明文化し(521条)
- 契約を成立させるためには、「契約の内容を示して」締結を申し入れることを必要とし(522条)
- 債務不履行によって損害賠償責任が発生するかどうかの判断では、債務不履行が、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」債務者に責任があるといえなければ債務不履行責任を負わないとし(415条)
- 契約成立のとき既に、債務の履行が不能だったときでも、約束した以上契約は有効で、債務不履行責任を問うことができるとし(412条の2)
- 目的物が「種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるときは」、買主は履行の追完等を請求でき(562条、563条、564条、415条、541条、542条)
- 契約解除に関し、履行の催告期間を経過したときにおける債務不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは」解除できないとした(541条)。