中小企業の視点で理解する「会社法要綱」のポイント
社外取締役選任の義務づけの行方は?
(1)社外取締役の設置
要綱は、公開会社(定款において全部または一部の株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めていない会社)で、かつ大会社(資本金5億円以上等の会社)である監査役会設置会社のうち、有価証券報告書を提出しなければならない会社において社外取締役が存在しない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とする、としています。
これは、業務執行の指揮命令系統に服さない社外取締役を企業に置くことが、不祥事を防いだり、投資家の信頼を得ることに役立つという観点に基づいたものです。
中間試案では、1人以上の社外取締役設置の義務づけも提案されていたものの、社外取締役の人材確保が必ずしも容易ではないこと、1人以上の社外取締役を義務化しでもどの程度実効性があるか不明であること、企業統治は各社の実情に応じて効率のよいあり方を個別に検討すべきとも言えること等から、要綱の内容になったものです。
社外取締役に関するこの規制は、公開会社であるなど要綱に記載された条件に該当する会社のみが対象となります。
しかし、有価証券報告書を提出する会社には1億円以上の株券や社債の発行等を行なう際に提出を義務づけられる有価証券届出書を提出する会社も含まれます(金融商品取引法24条)。この対象となる中小企業において社外取締役を置かない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告書で説明しなければなりません。
実際は、報酬に比して効果が期待できないとか、すでにコーポレートガバナンスは十分と考えているとか、適切な人材をみつけることは困難等の理由が存在すると考えられるものの、株主多数の会社においてその批判に耐える説得的な理由を説明することは必ずしも容易ではありません。
そのため、社外取締役を置いていない対象企業には社外取締役を設置する方向の圧力がかかっていくと考えられます。
(2)社外取締役・社外監査役の要件の厳格化
要綱は、社外取締役と社外監査役の要件を厳格化し、親会社等の取締役、執行役、支配人その他の使用人でないこと、親会社の子会社(いわゆる兄弟会社)の業務執行担当取締役、執行役、支配人その他の使用人でないことを、要件として追加しています。社外監査役については、親会社の監査役でないことも追加しています。
さらに親族関係について、社外取締役と社外監査役の要件として、当該会社の取締役、支配人その他の重要な使用人等の配偶者または2親等内の親族(親、祖父母、兄弟姉妹、子供、孫)でないことが追加されています。
社外取締役や社外監査役に就任する時点でその地位になくても、過去にその地位にあれば社外取締役、社外監査役になれない範囲を次のように設定しています。
【社外取締役】
過去10年間に当該会社またはその子会社の業務執行担当取締役、執行役、支配人その他の使用人でなかった者等
【社外監査役】
過去10年間に当該会社またはその子会社の取締役、会計参与、執行役、支配人その他の使用人でなかった者等
これらは、業務執行の指揮命令下にある者、それと密接な親族関係を有している者、親会社の利益のために行動するポジションにある者、過去10年間に業務執行の指揮命令下にあった者らを欠格にすることで、独立した立場から自由に意見を述べる役割が期待される社外役員の実質を確保しようとしたものです。
中間試案では親族要件について単に「支配人その他の使用人の配偶者、2親等内」とされていたところ、これでは多数の従業員を有する企業で欠格性が把握できない場合も生じかねないため、要綱では「支配人その他の重要な使用人」等の配偶者、2親等内とされ、「重要な」という縛りがかかりました。
これら欠格事由は、特に社外取締役、社外監査役の設置が義務づけられているにもかかわらず当該社外役員がじつは不適格者であった場合に重要な問題となります。この点、社外取締役については(1)のとおり、どの規模の会社に対しても義務づけはされていません。
社外監査役については、現行会社法が、監査役会の半数以上は社外監査役でなければならないとしているため、監査役会設置会社ではその人数の社外監査役を置くことが義務づけられています。
監査役会の設置が義務づけられるのは公開会社かつ大会社です。社外取締役、社外監査役を置く場合、親族要件と過去10年間の要件を満たしているかについて綿密なチェックが必要です。把握が必ずしも容易ではないからです。
もし要件を満たさない者を社外取締役、社外監査役にしていた場合、その者が参加した取締役会や監査役会の決議の有効性、ひいては株主総会決議の有効性に影響を与えることがあり得ます。