中小企業の視点で理解する「会社法要綱」のポイント
親子会社の株主に対する新たな保護規定の内容
(6)特別支配株主による少数株主のキャッシュアウト
要綱は、総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)はその他の株主に対し、株式を自己に売り渡すことを強制できる制度を創設しています。売買価格の協議が整わなければ、裁判所に価格決定の申立ができます。
これは、特別支配株主が少数株主に対価を払って会社から追い出すこと、すなわち少数株主をキャッシュアウトして完全に会社を支配し、効率的な運営を図れるようにすることを狙いとしています。
この制度の対象会社に制限はないため、中小企業でもこのキャッシュアウトが可能です。
これまでも株主総会決議で全部取得条項付株式にすることで少数株主のキャッシュアウトは可能でした。
しかし、中小企業の観点からみると、全部取得条項付株式は経営陣による企業買収や株式公開買付の後、非上場化するために行なわれてきたもので、手続きも煩雑であり、中小企業ではほとんど使われてきませんでした。
また、中小企業で少数株主が株式を保有している理由は、株式をほかに譲渡するとか配当を受けるという金銭的なものにとどまらず、親族や従業員として会社と関係を持ち続けたい等という点にもあると思われます。
裁判所に価格を決定してもらうルートがあっても、非上場会社の非支配株主の株式は、一般に株主が想定している以上に低い価格で評価されることが多いのです。
キャッシュアウト制度の創設は、中小企業に株主たる親族間の新たな紛争ツールをつくるのではないかという懸念があります。
(7)多重代表訴訟
要綱は、一定の歯止めの下で、親会社の株主が子会社の取締役の責任を追及するため株主代表訴訟を提起できるとしました。ある会社(以下「当該会社」)の100%親会社(以下「親会社」)の総株主の議決権の100分の1以上等を有する親会社の株主は、当該会社の取締役や執行役、監査役等の責任を追及するため、株主代表訴訟を提起できます。
ただし、この代表訴訟は、当該会社の取締役等の責任が生じた日において、当該会社株式の親会社における帳簿価額が、親会社純資産の5分の1を超える場合に限って提起できます。
これまで株主代表訴訟は、ある会社の株主がその会社の取締役等に対して提起するもので、親会社といえども法人格が異なる以上、親会社の株主がその子会社(当該会社)の取締役等に提起すること(多重代表訴訟と呼んでいます)はできませんでした。
要綱は、当該会社が他の会社(親会社)の100%子会社である場合、親会社によって当該会社の取締役等の責任が追及されなければ、ほかに当該会社の財産を回復する手段がないことを是正しようとするものです。
こうした多重代表訴訟は、大企業であれば親会社の株主保護として合理的な制度と考えられます。
他方、中小企業の視点でみると、中小企業が100%子会社を設立して事業を行なおうとする場合、当該子会社の取締役は、親会社の業務部長のような存在にすぎないことも多いと考えられます。
この場合、実質的には親会社の従業員に過ぎない者が、親会社の株主から株主代表訴訟を提起されることになります。そのため、中小企業の子会社設立による経営多角化、グループ経営戦略に萎縮が生じる可能性があるのではないかと懸念されます。
(8)子会社少数株主の保護
要綱は、親会社と子会社の利益相反取引が行なわれる場合、親会社が子会社の利益を害さないよう留意した事項、取引が子会社の利益を害さないかについての取締役会の判断とその理由を、事業報告の内容とするものとし、これらについての意見を監査役による監査報告の内容とするとしています。
これは、親会社がその支配力を背景に、親会社に有利で子会社に不利な取引を子会社に押しつけると子会社に損害が発生し、子会社の少数株主(親会社以外の株主)に損害を与えることになるため、その防止を目的としています。
中間試案では、利益相反によって子会社に損害が発生すれば、親会社は子会社に損害を賠償する義務があり、それは株主代表訴訟の対象となるという案が提示されていました。
しかし、そのような内容にすると、親会社において責任を問われる範囲が必ずしも明らかではなく、グループ経営を萎縮させる可能性があるという指摘を踏まえ、要綱の内容となったものです。
子会社を有する中小企業としては、その事業報告書に要綱の前記内容について記載しなければならず、監査報告書も要綱に沿った内容となるよう留意が必要です。