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中小企業の視点で理解する「会社法要綱」のポイント

監査役の役割はどのように変わるのか

(3)監査役の権限強化

要綱は、監査役または監査役会は、株主総会に提出する会計監査人(貸借対照表、損益計算書等の計算書類や附属明細書等を監査する公認会計士または監査法人)の選任、解任、再任しないことの議案を決定する権限を持つとしています。
これは、会計監査人が、会社の業務執行から独立した立場で客観的に企業の会計チェックを行なう役割を担うべきことから、その選任解任等も、業務執行を独立して監査する立場にある監査役に行なわせるのが適切という判断に基づいています。
中間試案では、会計監査人の報酬についても監査役が決定するという案が提案されていたものの、報酬をどの程度にするかは、会社の業績や予算の使い方といった業務執行に深く関わるため、要綱では削除されたものです。
中小企業においても、決算に対する信用確保のためや、規模がある程度大きくなったり、上場を視野に入れるなどして会計監査人を置いている企業も多くあります。
この場合、株主総会に提出する会計監査人の選任等の議案は、監査役または監査役会が決定することになります。注意が必要です。

(4)監査・監督委員会設置会社の創設

要綱は、新たに監査・監督委員会設置会社(仮称)を創設しました。株式会社であれば規模にかかわらず監査・監督委員会設置会社になれます。
現行会社法でも委員会設置会社があるものの、社外取締役が過半数を占める指名委員会が株主総会に提出する取締役の選任・解任議案を決定することが嫌がられ、ほとんど普及しませんでした。
そこで要綱は、監査役設置会社と委員会設置会社の中間のような機関設計である監査・監督委員会設置会社を創設したのです。
そのため委員会設置会社は監査・監督委員会を置くことはできず、監査・監督委員会設置会社は監査役を置くことができません。
監査・監督委員会を構成する監査・監督委員は、取締役でなければならず、その過半数は社外取締役でなければなりません。監査・監督委員は、取締役らの職務執行を監査するという、これまでの監査役と同様の役割を果たしながら、他方で、これまでの監査役と異なり取締役として取締役会での議決権を有します。
その意味で、これまでの監査役のような存在でありながらこれまでの監査役よりも強い立場にあるというわけです。中小企業も、株式会社であれば監査・監督委員会設置会社となることができます。
しかし、3人以上の監査・監督委員の過半数を社外取締役にしなければならないなど負担が軽くないこと、委員会設置会社と監査役設置会社の中間のような機関設計がどこまでコーポレートガバナンスに有効か未知数であること、特に中小企業においてはその必要性が明らかではなく制度も簡便とは言い難いため、ただちに普及することは考えにくいと思われます。
大企業において、委員会設置会社にしたくないけれど海外投資家等の信頼を得るため監査・監督委員会設置会社を採用する、といった利用が想定されるところです。

(5)支配株主の移動が伴う新株発行の制限

要綱は、公開会社が新株を発行する場合について次のような手続きを提案しています。

・当該新株の引受人が現在有している議決権と新たに引き受ける新株とを併せて、総株主の議決権の2分の1を超える場合は、新株対価払込期日の2週間前までに、当該引受人の氏名、住所、有することとなる議決権の数等を既存株主に通知しなければならない

・当該新株発行に対して総議決権の10分の1以上を有する株主から反対の通知があったときは、会社は株主総会を聞いてその承認決議を得なければならない

・ただし、会社の財産状況が著しく悪化している場合で、会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは、この株主総会決議は要しない

公開会社は取締役会決議のみで新株を発行できます。しかし、会社を支配する株主が変わるような新株発行は、既存株主にとって重大関心事です。
そこで、株主に通知し、一定数以上の反対があれば株主総会で新株発行の是非を決めるのです。他方、倒産に瀕しているなど緊急に資金調達が必要な際は株主総会を開く時間的余裕がないため、株主総会決議は不要とされています。
中小企業でも、特にベンチャー企業では資金調達の必要から株式譲渡について取締役会の承認を要する旨を定款で定めていない企業も多いです。そのような企業はここでいう公開会社に該当しますから、この規制の対象になります。
例外として、総会決議が不要な場合は極めて限定されていることから、10分の1以上の議決権を有する株主から反対通知が来た場合に備え、株主総会招集の準備も新株発行についての株主への通知と並行して行なう必要があります。

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